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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第73章
防水のそれを手に取ったヴィヴィは、「あ……」と声を漏らす。
『今、オックスフォードに帰り着いた。
クリスの容体はどうだ?
ヴィクトリアも、本当に風邪ひかないよう気をつけろよ?
あと、ガリガリ子ちゃんは、冗談だがら本気に取るな。 』
匠海からのメールを読んだヴィヴィは、噴き出した。
「さすがに冗談って事くらい、分かるよ」
そう突っ込んだヴィヴィは、メール画面を閉じようとし、数行後に続く文章があることに気づき、画面をスクロールした。
『 追伸 : 本当に、お前を連れ帰りたかったよ。 』
その一文を見た途端、ヴィヴィの表情が何とも言えないものになる。
「……嘘吐き……」
ふと零れてしまったその呟きに、ヴィヴィははっと口を噤む。
(いや……、一概に嘘とは言い切れないよね……。
だってヴィヴィがお兄ちゃんの傍にいれば、お兄ちゃん、
いつもえっちの相手、探す手間が省けるし。
ヴィヴィ、他の女みたいにやったんだから「付き合え」とか
「結婚しろ」とか言わないし……)
「言わない、じゃなくて……『言えない』……のだけど……」
そう呟いてしまったヴィヴィの顔が、ハーブの香りのする透明な湯の中に沈んでいく。
(けど、ヴィヴィが傍にいたら、ヴィヴィしか抱いちゃ、駄目なんだから……)
あの切れ長の灰色の瞳も。
均整の取れすぎた、九頭身の肢体も。
もちろん、女を惑わせ狂わせる、あの逞しい昂ぶりも。
自分が常にぴったりと兄の傍にいられたら、他の女になんて、絶対に――。
そこまで心の中で思ったヴィヴィは、鼻からふっと息を吐くと、瞼を閉じた。
(……いや……、傍にいても結局、『言えない』、だろうな……)
「………………」
ヴィヴィの体がずるずると、透明な湯の中に引き摺り込まれていく。
とぷんと小さな水音を立てて、ヴィヴィの金色の頭の先までが湯の中に沈む。
途端に全身が暖かで、一部の隙も無い、均一なものに覆い尽くされる。
息は出来ないのに、その事が、妙に安心感を与えてくれた。