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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第73章
(傍に居ても居なくても同じなら、今のヴィヴィは、どちらを選ぶだろう……)
ぷく、ぷく……と高い鼻から小さな気泡が零れ、水面へと上昇していくのが分かる。
(傍に居ないほうが、傷付かなさそうで、いいのかも……)
そう、今の自分の置かれた状態を正当化した時、何かぼんやりと歪んだ物音が、聞こえた気がした。
(………………?)
耳の中まで湯が入り込んでいるので、何の音かは判別が付かず、ヴィヴィは咄嗟に湯の中でぱちりと瞼を開いた。
(い、痛……っ!)
ハーブソルトの入った湯の中で裸眼は、痛くて当たり前。
焦って湯から出ようとしたヴィヴィの体は、何故か、ざばっと大きな音をと共に引き上げられた。
(……へ……?)
全身から暖かな湯が流れ落ちていく一種の喪失感を覚えながら、ぽかんとしたヴィヴィを、
「お嬢様っ!? 大丈夫ですか、お嬢様っ!?」
そう叫ぶように、主の安否を確認しながら見下ろしてくるのは、匠海の執事・五十嵐。
「……は、い……?」
何の事やら分からず呆けるヴィヴィの両の二の腕を、五十嵐の白手袋をはめた大きな掌が掴み上げていた。
「だ、大丈夫そうですね……。――って! ど、どうして浴槽なんかに沈んでいらしたのですっ!?」
「へ……? め、瞑想……?」
(考えてた事は、くだらなくて、悟りも何も開けなかったけど……)
そう思いながら水滴の滴り落ちる首を、傾げて見せたヴィヴィに、
「そんなところで瞑想なんてしないで下さい! し、死にますよっ!?」
と目を白黒させた五十嵐が指摘してくる。
(いや……死なないでしょう……。意識ははっきりあるんだから……)
心の中で静かに突っ込んだヴィヴィは、そこではたと我に返り、ようやく自分の置かれた状況を把握しだす。
「あ、あの……五十嵐……」
言いにくそうにそう言って見上げてくるヴィヴィに、五十嵐は折り目正しい返事を返す。
「はい? 何でしょう、お嬢様?」
「ヴィヴィ、も、もう大丈夫だから、その……」
そう恥ずかしそうに続けたヴィヴィは、両手を胸の上でクロスして、自分の小さな乳房を隠した。
「―――っ!? も、申し訳ありませんっ」
瞳を見開いてぱっと主から手を放した五十嵐は、すぐに回れ右をしてヴィヴィに背を向けた。