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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第73章        

「ご、ごめん、なさい……。五十嵐の服、びしょ濡れに……」

 バスタブに躰を隠したヴィヴィは、五十嵐の黒いスーツが濡れている事に気づき、申し訳なくなる。

「滅相もございません。大変失礼致しました」

 そう静かに口にした五十嵐は、そのままバスルームを出て行った。

 しんと静まり返ったバスルームに、

「…………はは」

と乾いた笑いが響く。

(お兄ちゃん以外の男の人に、裸、見られちゃった……)

 バスタブの傾斜に華奢な背を預けて、ずるずる湯の中に沈み込む。

 そのまましばらく、ぼうとしていたヴィヴィだったが、急に「ん?」と首を捻る。

(今のって『キャ~っ!? えっちっ!』とか、女の子らしく叫ぶべきところだったのかな……?)

「……ま、いっか……。男の人だけど『執事』だもの……」

 それは男性としてカウントしない、とヴィヴィは自分に言い聞かせた。

 そして色々あって忘れていたが、匠海からのメールに当たり障りのない返事を返すと、バスタブから出た。







 バスルームから出たヴィヴィを待っていたのは、濡れたスーツを着替えた五十嵐だった。

「先程は、大変申し訳ありませんでした」

 そう深々と礼をしてきた五十嵐に、ヴィヴィは驚く。

「え……? ああ、大丈夫だよ。もうお互い、忘れよう? っていうか、ヴィヴィ、もう忘れてたし」

 そう言って「えへへ」と笑って見せたヴィヴィに、五十嵐が心底申し訳なさそうな顔をする。

「あれでしょう? どうせ朝比奈に『ヴィヴィが入浴中によく寝ちゃうから、見張っとけ!』的なことを言われたんでしょう?」

「はい。仰る通りです」

「あ、さっき、お兄ちゃんから、オックスフォードに着いたってメールがあったの!」

「さようでございますか。今、向こうは前日の16時ですね」

 自分の主の情報に瞳を細めた五十嵐に、ヴィヴィも微笑む。

 リビングの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出したヴィヴィを見て、五十嵐がグラスと氷を用意してくれる。

「ありがとう。ヴィヴィ、これ飲んだらもう寝るね? 今日一日、どうもありがとう。たぶん明日もだよね? よろしくお願いします」

 ソファーに座ったヴィヴィがそう言って、五十嵐にぺこりと頭を下げる。

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