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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第73章        

「本当に、怖がりなのに怖い話を聞きたがるの、やめてくださいね?」

「ご、ごめんなさい……」

 そう首を竦めたヴィヴィは、朝比奈に促されて寝室に入る。

 照明が落とされ、ベッドサイドのランプだけが温かく灯る。

「クリスは? 熱下がった?」

 ベッドによじ登ったヴィヴィが、心配顔で朝比奈に尋ねる。

「ええ。おそらく明日は登校できると思いますよ?」

 白い羽毛布団を捲ってヴィヴィに入らせた朝比奈が、そう答えて微笑む。

「良かったっ! ねえ、今、お見舞いに行っちゃダメ?」

「…………、駄目です。先程、眠られましたので」

「そっか。明日会えるしね……。良かった。っていうか、ごめんね。看病で疲れてるところ……」

 「朝比奈も休んでね?」と言った舌の根も乾かぬうちに、添い寝を頼んでいる自分に、ヴィヴィは凹んだ。

「ふふ、大丈夫ですよ。それに、たまにはいいですね、こういうのも」

 頬を緩めた朝比奈が、布団の中から見上げてくるヴィヴィを見詰める。

「ん?」

「懐かしいです。お嬢様方がまだ幼少の頃、よくこうして寝かしつけたなと思い起こせて」

 そう言いながら、ポンポンと羽根布団の上から肩口を叩いてあやされると、ヴィヴィも子供の頃に戻った懐かしい気分になる。

「あ……、朝比奈、『悪魔ヴィヴィ』の餌食になったらしくて、ごめんね?」

「はい?」

 ヴィヴィの言った意味が分からなかったのだろう、朝比奈が不思議そうな相槌を返してくる。

「えっと――」

 ヴィヴィはパリでジュリアンに言われた、「3歳の頃ね。何でもかんでも『イヤイヤ!』ばかり言って反抗するから、『何なんだ、このちっこい悪魔はっ!?』て、みんな振り回されてたのよ?」という内容を手短に説明する。

「……ああ。大変でしたね、確かに」

 ヴィヴィの説明を聞いた朝比奈は、そう言って少し遠くを見るような瞳をした。

「め、面目ない……」

「でも却って良かったんですよ? ちょうどお二人付きの執事になったのが、その頃でしたので。感情をそのままぶつけて来て下さるほうが、こちらとしては分かりやすくて助かりました」

「へえ」

 朝比奈の意外な返しに、ヴィヴィは興味深そうに見上げる。

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