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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第73章
「そして、“魔の三歳児”の恐ろしさを経ての、その後の成長を見守るという、“子育ての醍醐味”も味あわせてもらいましたし」
そう言ってにこりと笑った朝比奈に、ヴィヴィが枕の上の頭を小さく捻る。
「うん?」
「その後の素直なお二人が、本当に可愛らしくて可愛らしくて。もう目の中に入れても、痛くないですよ?」
「あはは。もうそれ“孫”じゃない? グランパ(祖父)か!」
双子の事を「天使」と言ったりする朝比奈に、ヴィヴィは破顔して突っ込む。
「心境はそうですね。
ですから私は、お二人には絶対に“幸せ”になって欲しいのです」
そう言って銀縁眼鏡の奥の瞳を、愛おしそうに細めた朝比奈に、ヴィヴィは言葉に詰まる。
「………………」
(朝比奈……)
ヴィヴィの灰色の瞳が、心の動揺と共に、ふるりと震えた。
「ふふ。もう、眠りましょうね……。お休みなさいませ、お嬢様――」
朝比奈は落ち着いた声音でそう囁きながら、ヴィヴィの瞼の上に白手袋をした大きな掌をかざした。
ヴィヴィはゆっくりと、瞼を閉じる。
「おやすみなさい……」
そう静かに答えたヴィヴィは、やがて、すうすうと静かな寝息を立て、夢の世界へと落ちていく。
ランプに照らされる、ヴィヴィの小さな顔をしばらく眺めていた朝比奈は、寝室の扉を静かに閉めて退室した。
右隣のクリスの私室へと戻った朝比奈は、五十嵐に礼を言って、もう一人の主の寝室へと入っていく。
こちらも暗い部屋の中、ベッドサイドのランプだけに照らされたクリスが眠っていた。
ヴィヴィと瓜二つのその寝顔に、朝比奈の口元が自然に緩む。
しかしそれも一瞬で、その後に浮かんだ表情は、事の行く末を案じるような複雑なものだった。