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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第73章
周りが喚き立てる中、ヴィヴィの顔を覗き込んできたのは、カレン。
「ちょっと、大丈夫……? ヴィヴィ、クリスと喧嘩したの!?」
ヴィヴィははっと我に返り、親友を見つめてふるふると首を振る。
「しっ、してない……、し、知らない……」
ヴィヴィのその返事に、周りがまた一斉に騒ぎ出す。
「機嫌悪かっただけじゃない? ほら、体調悪かった訳だから……。3日間も寝込んでて、スケートも出来なくて、ストレス溜まってたとか?」
「でもあの、温厚なクリスが? しかも、ヴィヴィ相手に?」
「あ、風邪ひいてたんだから、まだ“うつる”かもってことは? 触っても話しても“うつる”しね?」
その時、カランコロンと予鈴が鳴った。
「あ……、みんな、ゴメンね、心配かけて……。ヴィヴィ、後でクリスと話してみるから」
そろそろ担任も教室に来るし、クリスも戻って来るだろうと、ヴィヴィはそう言って事態の収拾を図る。
「ああ。気にすんな。大丈夫だって」
アレックスがそう言いながら、ヴィヴィの頭を撫でてくる。
「そうだよ、なんたってクリス、超シスコンなんだから!」
カレンが笑いながら、自分よりも10センチ低いヴィヴィの顔を覗き込んでくる。
「うん! ありがとう」
ヴィヴィはそう言ってにかっと笑ってみせると、大人しく自分の席に着席した。
1限目の英国の歴史の授業を受けながら、ヴィヴィの思考は、目の前に座るクリスの元にあった。
必死でクリスとの今までのやり取りを、頭の中で思い起こす。
クリスが寝込む前、最後に顔を合わせたのは、4日前――1月3日の深夜23時。
クリスの書斎で一緒に勉強し、互いにおやすみのハグを交わして別れたのが最後の筈。
もちろんその時のクリスはいつも通りだったし、優しく「ちゃんと寝るんだよ?」と念まで押してきた。
(うん……きっと、虫の居所が悪かったんだよ……。
みんなが言うように、風邪がうつるからっていう意味なんだよ……)
ヴィヴィは自分にそう言い聞かせると、ノートも取っていなかったことに気づき、慌てて板書を書き写し始めた。