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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第74章
「はあ……。朝比奈、かなり贔屓目入ってるからね、それ……」
(確かに小さい時、誘拐されそうになったらしいけど。ヴィヴィもう16歳だからね……?)
「入ってなどおりません。私のお嬢様は“世界一お可愛らしい”のですから」
「は、ははは……」
朝比奈の『執事馬鹿』炸裂なその返しに、ヴィヴィはただただ、乾いた笑いを溢したのだった。
帰宅後、2時間勉強したヴィヴィは、朝比奈に呼ばれ、ディナーを取るために階下のダイニングに降りた。
扉を開かれて中に入ると、案の定、そこには一人分のカトラリーしか用意されていない。
「クリスは……?」
椅子を引かれて腰かけながら、ヴィヴィがそう尋ねると、
「お部屋で取られる、とのことです」
と朝比奈が返してくる。
「そう……」
平日なのでそんなにゆっくりもしておられず、ヴィヴィが着席して早々、目の前にスープが供される。
「いただきます」
いつも通りそう言って手を合わせたヴィヴィだったが、その声がガランとしたダイニングに響き、余計寂しくなる。
「……食欲、湧きませんか?」
スプーンを手にしたまま、ぼうとしているヴィヴィに、朝比奈が静かに声を掛けてくる。
「ごめん、なさい……」
ヴィヴィは周りに心配を掛けてはいけないとは分かっているのに、どうしても食事に手を付ける気になれない。
実はランチも取りそびれたので、お腹が空いている筈なのだが。
「お嬢様。少し、お待ち下さいね?」
「え? う、うん……」
思案顔の朝比奈はそう言い置いて、どこかへ行ってしまった。
本当にダイニングに一人取り残されたヴィヴィは、ぼ~と何処でも無い所を見やる。
「………………」
(クリスはちゃんと、食べてるのかな……。病み上がりだから、よけい心配……)
匠海が留学してしまった今、忙しい両親とも食事をとる機会は休日に限られ、いつもクリスと一緒に取っていた。
クリスは寡黙だが、ヴィヴィとの会話を楽しんでくれたし、ヴィヴィもクリスの返しがいつも的確で気が利いていて、ついつい話も食事も進んでいた。
そんな双子の兄の傍に居られない現状が、学校でも家でも続き、ただただ寂しい。