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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第74章
しばらくしてダイニングに戻ってきた朝比奈は、主を見つめてにこりと微笑んだ。
「お嬢様、参りましょう」
「へ? どこへ……?」
椅子を引いてくれる朝比奈に、ヴィヴィは立ち上がりながら尋ねる。
「嫌でも、食欲が湧く場所へ――です」
そう楽しそうに言った朝比奈に連れられて行ったのは、いつもは入ってはならないと言われている、厨房。
数分後。
「わあ……! こうやって作るんだ……っ 凄い、手品みたいっ」
料理長が目の前で作り上げていく料理に、ヴィヴィは灰色の瞳を輝かし、食い入るように見つめていた。
「今日は特別ですよ?」
そう言って悪戯っぽく笑った40代の精悍な料理長が、手早く作ってくれたのは、なんとお子様ランチ。
丸く盛られたチキンライスに、エビフライ、ハンバーグ、唐揚げ、野菜で作った可愛らしい動物達。
いつものヴィヴィには高カロリーなメニューだが、昼を抜いているのでそれでも良いらしい。
「お嬢様、仕上げですよ?」
そう言って料理長が渡してくれたのは、楊枝に紙を貼って即席で作った英国旗。
「わあっ! 完成~!」
お子様ランチに旗を立てたヴィヴィは、手を叩いて喜んだ。
「美味しそうっ! 勿体ないから、食べる前に写真撮る!」
スマホにぱちりと収めてからも、嬉しそうにそれを見つめていたヴィヴィが、恐るおそる口を開く。
「あの……ここで、食べてもいい?」
(もう、あんな広いところで、一人で食べたくないの……)
「勿論です。さあ、出来立てを温かいうちに、どうぞ?」
そう言って笑った料理長は、ヴィヴィにスプーンとフォークを出してくれた。
「ありがとう! いただきま~すっ」
両手を合わせたヴィヴィは、さっそくぱくりと頬張る。
「温かい……、美味しいっ」
満面の笑みでそう呟いたヴィヴィに、朝比奈と料理長が顔を見合わせて笑った。
お子様ランチも、先程出されたスープを温め直したものも、全て綺麗に平らげたヴィヴィは、元気になっていた。
「お嬢様。今度、海苔巻きを一緒に作ってみませんか?」
ヴィヴィが食べるのを、ずっと嬉しそうに見ていてくれた料理長が、微笑みながらそう尋ねてくる。