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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第74章                 

「うふふ。料理長がね、いつも工夫してくれてるの」

(昨日も、すごい短時間で、野菜でいっぱい動物作ってくれたし)

「これなんか、可愛い。くまモン?」

 ジェシカが指差したのは、海苔で作られた黒いおにぎりで、丸く白い目と、赤い頬が特徴的な“ゆるきゃら”を模したもの。

「だね? 器用だなあ。ああ、そう言えば……。ヴィヴィ、うちでBambi(小鹿ちゃん)って呼ばれるんだけど、上のお兄ちゃんがBear(クマちゃん)って呼ばれてることが、この間、発覚して――」

 ガタン。

 大きな音がして、会話を中断した二人が、視線をそちらにやる。

 ヴィヴィの前の席――クリスが立ち上がり、ヴィヴィそっくりの薄い唇を開いた。

「へらへら、へらへら……。何がそんなに楽しい……?」

(……え……?)

 ヴィヴィはクリスを見詰める。

 視線はこちらに無いが、意識がこちらへと向けられていて、明らかにヴィヴィに対して発した言葉だと分かる。

「おい……、クリス……」

 クリスと喋っていたアレックスが、そう呼び止めるが、クリスは教室を出て行ってしまった。

 その後ろを、カレンが心配そうに追い駆けて行くのが目に入る。

「気にするな、ヴィヴィ……。あれは、クリスの本心じゃない。分かってるだろう?」

 空いたクリスの席に移ってきたアレックスに、ヴィヴィは頷く。

「うん……、分かってる」

(反抗期なんだから、しょうがない……)

 カランコロン。

 予鈴の音を聞いたヴィヴィが、はっと俯いていた顔を上げる。

「あ、いけないっ!」

「ヴィヴィ?」

 目の前のアレックスが、くるくるの巻き毛をそよがせて首を傾げる。

「もう、絶対に残さないって、料理長と約束したのっ」

 フォークを握りなおしたヴィヴィは、また食事を再開する。

「そっか。よく噛んで食べるんだぞ~」

「うんっ」

「なんか、小動物みたいで可愛いなあ……」とアレックス。

「ねえ、癒されるわぁ……」と、ジェシカ。

 二人にそう言われたヴィヴィは、丸みの残る頬をリスの様に膨らませ、ランチボックスの中身を綺麗に平らげたのだった。









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