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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第74章
はぁと大きな溜め息が、高い本棚に部屋中を囲まれた書斎に響いた。
「ヴィヴィ……、どれだけクリスに“おんぶに抱っこ”されてたか知らなかった。気づこうともしなかった。自分で自分の勉強のスケジュールも、分からないなんて……」
「お嬢様……。それに気付けただけでも、宜しいではありませんか。大事なのは、その先、どう出来るかだと思いますよ?」
朝比奈のその的確なアドバイスに、ヴィヴィはデスクからむくりと顔を上げる。
「うん……。そうだねっ 自分で出来る限り、頑張るっ」
「私もお手伝いさせて頂きます。頑張りましょうね」
「うんっ」
2時間勉強したヴィヴィは、今日も厨房にいた。
「凄いっ! ちゃんと丸くなったね!」
ステンレスの機材に囲まれたプロ仕様の調理場に、不釣合いな可愛らしい声が上がる。
ヴィヴィは巻きすを解いた海苔巻きを見つめ、歓声を上げた。
「もう一本作りましょうか。今度は好きな具材を、巻いてみましょう」
料理長の言葉に、ヴィヴィは瞳を輝かす。
「じゃあね、“とびこ”いっぱい入れる~、っていうか、“とびこ”だけ入れるっ」
「それだけでは、切った時にすぐに崩れてしまいますね」
小さな卵のそれだけでは、どうやら駄目らしい。
「そっか。じゃあ……」
ヴィヴィは適当に好きな具材を、海苔の上の酢飯に並べると、また巻きすで巻き上げた。
「では切ってみましょうか。うん……、綺麗に出来てますね?」
「ホントだっ はい、あ~ん」
ヴィヴィは切られた海苔巻きを一つ掴むと、料理長の口元に差し出す。
口髭の下の大きな口に、海苔巻きが吸い込まれる。
「……ん、具材のバランスも良くて、きちんと巻けてます」
「やった。はい、朝比奈も、あ~ん」
ヴィヴィは喜びながら、隣に立っていた執事にも海苔巻きを差し出す。
「お嬢様……。私は勘弁して下さい」
「どうして? はい、食べて!」
「……今日だけ、ですよ?」
そう念を押して、主の手から海苔巻きを食べた朝比奈を、ヴィヴィが覗き込む。
「どう?」
「美味しいです。お嬢様がお作りになった物だったら、もう何でも美味しいです」
朝比奈は心底嬉しそうにそう言うと、満面の笑みを見せた。