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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第74章
「……それ、全然褒めてないからね? っていうか、ヴィヴィ、巻いただけだし」
そう言って朝比奈を睨んだヴィヴィは、自分も海苔巻を食べてみた。
(美味しいっ やっぱり自分で巻いたから、余計……)
「あはは、朝比奈なら、焦げて炭と化した魚でも、お嬢様が焼いたものなら、食べそうだな?」
「う~ん。速攻、癌を発症しそうですね……」
二人がそう面白がっている中、ヴィヴィはじっとまな板の上の残りの海苔巻を見つめていた。
「お嬢様?」
朝比奈がヴィヴィの様子に気づき、見下ろしてくる。
「“とびこ”……、クリスも大好きなの……。これ、クリスにも食べて欲しいけれど……、無理だよね……」
そう言って寂しそうに微笑んだヴィヴィに、
「こっそり、お出ししてみましょうか?」
料理長のその提案に、ヴィヴィが顔を上げる。
「え……?」
「実は今から、ダイニングでディナーを取られるのですよ、クリス様が」
そう言って悪戯っぽく微笑んだ料理長に、ヴィヴィの表情がみるみる解れる。
「……うんっ」
10分後、戻ってきたのは、空のお皿。
朝比奈と料理長が、パンと互いの手を叩き合う傍ら、ヴィヴィはほっとして、へなへなと椅子に座りこんだ。
「なんか、気分は“お母さん”……です……」
そう呟き、脱力した様子のヴィヴィに、男二人は顔を見合わせて苦笑した。
食事を終えたヴィヴィは急いで準備し、練習着にダウンジャケットを羽織って、階下へと降りていく。
その視線の先の玄関ホールに、クリスがいることを確認し、ヴィヴィは残りの階段を駆け降りて行った。
ヴィヴィの足音に気付いたのか、玄関ホールのソファーから立ち上がったクリスは、自分で扉を開いて出て行く。
傍にいた朝比奈が、ベンツに乗り込んだ双子にそれぞれiPadを手渡すと、ドアを閉めた。
「いってらっしゃいませ」
うっすらと聞こえた朝比奈の挨拶に、ヴィヴィは頷いて返すと、車が発車した。
屋敷をぐるりと囲んだ高い門扉を抜けて車が外へと出た頃、クリスがiPadで自分のスケーティングの確認をする為、イヤホンを耳に刺そうとした。
「クリス……。午後、どこ行ってたの?」
「………………」
ヴィヴィの静かなその問いにも、クリスはこちらを見ようともしない。