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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第74章
篠宮家とカレンの家は、もう10年以上の付き合いがあり、互いの両親もとても仲がいい――というか、呑み友だ。
家族ぐるみの付き合いなので、問題にもならなかったのだろう。
「よかった。カレンには会った?」
実は、カレンとはまだ連絡が取れていない。
カレンのスマホにかけても通じないのだ。
「ええ、ちょっと元気無かったわね。ご両親に怒られたのかもしれないわ」
「そう……。マムは? クリスのこと、怒ったの?」
「いいえ。注意はしたけどね。無断で、しかも女の子を連れて居なくなったら、周りに迷惑掛けることくらい分かってるでしょう? って」
そう説明したジュリアンは、クリスが「ごめんなさい」と素直に謝ってきた事を付け加えた。
「そう……」
ヴィヴィはストレッチマットの上で、開脚し、その間にぺたりと上半身をくっ付けた。
そんな娘を見下ろしながら、ジュリアンが釘を刺してくる。
「あ、もちろん、ヴィヴィが同じ事したら、怒るわよ?」
その理不尽な対応の差に、ヴィヴィはがばっと顔を上げる。
「何でさっ!?」
「あんたは何か、色々と危なっかしいから! じゃあね~~」
人差し指をびしりと娘に突き付けたジュリアンは、そう言い放つと、フィットネスルームから出て行った。
「……――っ 何なのさっ!?」
一人取り残されたヴィヴィは、そう言って膨れながらも、怪我をしないように念入りにストレッチを再開した。
メインリンクでは、既にクリスがエキシビションの練習をしていた。
双子は4日後に、アイスショーの出演を控えている。
ヴィヴィはリンクの隅で、リンクメイトと一緒に、サブコーチとステップの確認を始める。
広いリンクにマイケル・ジャクソンの『Smooth Criminal』が鳴り響く。
冒頭の4回転ジャンプで転倒した音がし、ヴィヴィははっとそちらを振り向いた。
一昨日から練習を再開したクリスは、ずっとジャンプの調子が悪い。
4回転は勿論、3回転アクセルの成功率が格段に落ちている。
「こら、ヴィヴィ、休まない!」
サブコーチの声に、ヴィヴィは我に返り、リンクメイトに続いてステップを踏み分けていく。
(やっぱり3日間、リンク離れてたからかな……。病み上がりで本調子じゃないのかも……。頑張れ、クリス!)