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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第74章                 

 続いてヴィヴィの、エキシビションの番になる。

 リンクに『不思議の国のアリス』の軽快で明るい音楽が鳴り響き、満面の笑みを浮かべたヴィヴィが、コミカルに広いリンクを滑り始める。

「いいわよ~、あくまでチャーミングに、……その調子! そこ、もっと溜めてっ ……そうっ」

 ジュリアンのアドバイスを受けながら、ミスなく滑りきったヴィヴィは、ラストのポーズを取る。

 その瞬間、その身を貫いたのは、刃のように鋭い視線。

 殺気とも取れるほど痛い視線に、ヴィヴィはそれが送られてくる方向へと顔を向ける。

「……――っ」

 リンクの隅、フェンスに凭れ掛かっているクリスの、その小さな顔に浮かんでいたのは、紛れもない――憎悪。

 ヴィヴィの華奢な躰が、びくりと大きく震える。

(ク、リス……?)

 その余りにも強い瞳に、ヴィヴィは目を逸らせなかった。

「ヴィヴィ! 次、成田・下城ペアだから、どいて~!」

 ジュリアンのその指摘に、ヴィヴィははっと我に返る。

「あ……っ す、すみません!」

 そう謝りながらリンク中央を譲ると、達樹と舞にすれ違う際にぽん、ぽんと頭を撫でられた。

 フェンスまで滑ったヴィヴィは、恐るおそる、クリスのいたほうを振り返る。

 しかしもうそこには誰もおらず、クリスの姿もなかった。

(見間違い……? ううん、違う……。あれは、クリス、だった……)

「………………」

 ヴィヴィは咄嗟に自分の体を庇う様に、両腕で抱きしめる。

 双子の兄は、いつも無表情だが、自分や周りに向ける視線はいつも落ち着いていて、柔らかかった。

 物心付いた頃から、一度も自分とケンカした事のないクリスは、もちろんあんな瞳を自分に向けることは、一度だってなかったのに。

 ヴィヴィは薄い唇を、白い歯できゅっと噛む。

(耐えなきゃ……。

 だってクリスは今、自分の中で必死に戦ってる。

 大人になる為に、一番苦しんでいるのは、クリス自身なんだから……)

 ヴィヴィは自分にそう言い聞かせると、にっと唇を笑みの形に変えた。




 



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