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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第14章
ゆっくりと弓を下した匠海は、緩慢な動作でヴィヴィを振り返ると、真顔でひたと見つめてきた。
その静謐な眼差しに、ヴィヴィはまるで自分の心を見透かされたかのように、ぞくりと華奢な躰を戦慄かせる。
しかし数十秒後、何もなかったようにさっと視線をチェロに戻した匠海は、クロスで楽器を磨き始めた。
(………………?)
なんだったのだろうと思いながら鍵盤に視線を落とした時、匠海が口を開いた。
「ミンスクって寒いの?」
「え……?」
いきなりの質問に、ヴィヴィは戸惑って顔を上げる。
「今週末の世界ジュニア、ベラルーシ共和国のミンスクだろう?」
「あ、そのミンスク……。えっと、2月でも13℃位まで上がるらしいよ、日本より温かそうだね」
荷物をパッキングするときの為に、執事の朝比奈が調べてくれた情報を匠海に伝える。
「そうなんだ。行きたかったな……」
匠海はそう言って少し寂しそうにため息をついた。
驚くべきことに、匠海は今まで双子の試合全てに応援に駆け付けてくれていた――国内国外を問わず、全てだ。
土日に多い試合とはいえ、海外では移動距離を考えたら、匠海も学校を休んで来てくれていたのだろう。
初めは両親の「家族はいつでも一緒!」という教育方針から始まったことだが、兄も毎回喜んで応援に来てくれた。
勿論双子も、匠海が乗馬の大会に出る度に、駆けつけて応援していた。
しかし、今回の世界ジュニアはどうしても大学の予定と都合がつかず、匠海は初めて双子の試合を観戦できないことになってしまった。
「今まで、全ての試合に来てくれてたので十分だよ。お兄ちゃん、これからどんどん多忙になるだろうし……」
「2人が1つずつ課題をクリアしていくの、見るのが好きだったんだ。観察日記みたいで面白かった」
そう言ってにやっと笑った匠海に、ヴィヴィも笑う。
「なにそれ」
「ま、俺は日本で使用人達と生中継見ながら応援するよ。J-SPORTS様々だな」
BSでJ-SPORTSに契約していると、フィギュアのあらゆる大会の全ての種目が、日本にいながら視聴可能だった。
「うん。実はお兄ちゃん来なかったら『勝利の女神』も来てくれないんじゃないかと、心配だったんだけど……。画面を通してヴィヴィとクリスにエネルギー送ってね?」