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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第75章            

 ヴィヴィは真っ直ぐにクリスを見下ろすと、薄い唇を開いた。




「ヴィヴィ、お兄ちゃんを汚した。

 “クリスのお兄ちゃん”なのに、ヴィヴィが、汚した……っ」




 そのヴィヴィの言葉に、見上げてくるクリスの顔が強張った。

 灰色の瞳に浮かぶのは、失望と、やはり、という感情。

 その視線に、ヴィヴィは一瞬ひるんだが、大きく瞬きすると、もう一度視線を合わす。

(クリスがヴィヴィを憎むのは、当たり前。

 けれど今回の事で確実に、

 クリスの中でお兄ちゃんに対する心象も変わってしまった筈。
 
 そしてその起因を作ったのは、他でもない、ヴィヴィ――)

「ヴィヴィが、全てを狂わせてしまったの……」

 あの日、あの夜、行き場のない気持ちを兄にぶつけ、力づくで兄を貪った。

 そして、その後も――。

 再度唇を開いた妹の手を掴んだクリスが、立ち上がってその胸の中にヴィヴィを抱き込む。

「もういい、ヴィヴィ、もう、いいよ……っ」

 クリスが苦しそうにそう呟く。

 その心情を表すように、ヴィヴィを抱き締めるその腕の力は、痛みを感じるほど強い。

 ヴィヴィはその胸の中で、ふるふると頭を振った。

「悪いのは全てヴィヴィなの……っ

 お兄ちゃんは何も悪くないのっ」

(それだけは分かって欲しい。

 ヴィヴィは知っているから。

 クリスがどれだけお兄ちゃんの事を尊敬し、慕っているかを知っているから)

 だから自分を、怒って。

 詰って。

 貶(けな)して。

 もう立ち直れないほど、貶(おとし)めて。

 クリスがそうしてくれなければ、自分はもう、どうしていいか、判らない。

 ヴィヴィは目の前のクリスのシャツの腹を、くしゃりと両手で握りしめる。

 自分が頬を寄せているその胸の中で、クリスがどれだけ傷付いているのか、自分は測りようがない。

 ヴィヴィは今か今かと、体を強張らせて待っていた。

 双子の兄にどれだけ罵られ様と、絶対に涙だけは見せない――それだけを思っていた。

 なのに、数十秒経っても、数分経っても、クリスはそのまま動かなかった。

(……クリス……?)

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