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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第75章            

 顔が見えないので、表情が読めない。

 無言なので、心情が読めない。

 頬に触れる胸からは、少し速いが規則正しい鼓動しか聞こえてこない。

 こんなにぴったりと互いの体は触れ合っているのに、クリスの考えている事が全く解らない。

「………………っ」

 ヴィヴィの胸がざわざわと、落ち着きなく騒ぎ出す。

(お願い、クリス……。早く、ヴィヴィを罰して……っ

 早く、罵倒して滅茶苦茶にして――っ)

 ヴィヴィの焦燥がピークに達し、口を開こうとした瞬間、

「そうだとしても……、ヴィヴィが全ての起因、だったとしても――」

(……え……?)

 長い沈黙の後、急に口を開いたクリスに、ヴィヴィは戸惑いの声を心の中で上げる。

 抱擁を緩めたクリスが、大きな両の掌でヴィヴィの頬をくるみ、上を向かせた。

 当惑の表情を浮かべるヴィヴィの顔を、クリスが静かな双眸で見下ろしてくる。

「僕は、どんなヴィヴィも受け入れる……、愛しているよ……」

「………………え?」

 ヴィヴィは咄嗟には、クリスの発した言葉の意味が理解出来なかった。

 灰色の瞳は、最初はクリスをぼうと見上げていたが、やがて心の中を表すように左右に振れ始める。

 「え」の形で開かれたままの口が間抜けにも見えるほど、ヴィヴィの頭の中は驚嘆していた。

(……ヴィヴィを、受け入れる……?

 愛して、いる……?)

 ヴィヴィはぱちぱちと瞬きを繰り返すと、開いたままの口で声を発した。

「……――っ な……っ、ど、どうして……?」

 掴んだままだったクリスのシャツを、更にぎゅうと握りしめる。

 どうして――?

 ヴィヴィの頭の中にある言葉は、それだけだった。

(ヴィヴィは、クリスに委ねるって決めたの。

 自分の行く末を、クリスに委ねるって決めたの。

 そう決めたのに。

 なのに、どうして――?

 どうして、クリスは、ヴィヴィを受け入れる事が出来るの?

 あ、愛してるなんて、言えちゃうの……っ!?)

 混乱するヴィヴィを見下ろしてくるクリスの表情は、徐々に苦しそうなものへと変化していく。

 ヴィヴィと同じ薄い唇が、ゆっくりと開かれる。



「この一週間、ずっと、考えてた……。

 どうして僕は、こんなに腹を立てていて、

 こんなにも苦しくて、哀しいのか……」


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