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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第75章            

 そう心の中を吐露したクリスに、ヴィヴィは息を飲んで瞳を歪める。

「……クリ、ス……っ」

 ヴィヴィの頬に添えられたままの、クリスの両掌が震えていた。

「ヴィヴィの事、嫌いになれればよかった。

 憎めればよかった。

 いっその事、離れられればよかった……。

 そう出来れば、どれほど楽か――」

 苦しげにそう口にしたクリスは、こつりとヴィヴィのおでこに自分のそれを合わせてくる。

「でも、どうしても、どうしても、出来なかった……」

 ヴィヴィを真っ直ぐに見ていたクリスの瞳が閉じられ、その瞼がぴくぴくと震えていた。

 こんなクリスは見た事が無い。

 こんなに心情を口にし、苦しそうなクリスを見た事が無い。

 全て、すべて、自分がそうさせているのだ。

 本当ならば、死ぬまで感じる事など無かったであろう苦悩を、双子の兄に味あわせ、強いている。

 ヴィヴィの薄い胸がぎゅうと締め付けられ、その苦しさの中、掠れた声でその名を呼ぶ。

「……ク、リス……っ」

 ヴィヴィからおでこを離したクリスが、至近距離でヴィヴィの瞳を射抜いてきた。

「ずっと、一緒だったんだ……」

 隠し切れない苦悩の表情を浮かべたヴィヴィを、クリスが愛おしそうに見つめてくる。

 その一見場違いとも思えるクリスの表情に、ヴィヴィはびくりとおののく。

「ずっと、一緒だった。僕と、ヴィヴィは――。

 この世に生まれ落ちた時も、

 氷の上に乗ったのも、

 歩き出したのも、

 迷子になって一緒に泣いたのも、

 BSTに入学したのも、

 初めて出た試合も、

 ヴィヴィが、僕のために走ってくれた、オリンピックも……、

 受験勉強も。

 常に、ヴィヴィが隣にいて、弾けんばかりの笑顔で、僕を導いてくれたから。

 だから今、僕はここに、こうやって存在していられる――」

「……――っ」

 クリスのくれた言葉に、ヴィヴィは焦ってふるふると首を振る。

(違う! それは、違うっ

 クリスがヴィヴィを導いてくれたからっ

 迷った時も、戸惑った時も、落ち込んで先が見えなくなった時も、

 いつも、抱きしめて、落ち着かせて、先へと導いてくれたのは、

 他でもないクリス――)

 そう言いたいのに、感謝を伝えたいのに、何故か咽喉が詰まって言葉が出て来ない。

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