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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第75章            

 心底困惑した表情を浮かべるヴィヴィに、クリスは“物分りの悪い子供”に言い聞かせるような困った表情で口を開いた、

「だって、僕、ヴィヴィの血の繋がった、“双子”の“お兄ちゃん”、だから……」

「……え……?」

 全く会話の前後が繋がらず、ヴィヴィは呆気に取られる。

(どうしてそれが、ヴィヴィが必要な理由、になるの……?)

「僕は今までそうして生きてきたんだ。

 君の双子の片割れとして、お兄ちゃんとして、

 そういう“役割”を演じることで生きてきた。
 
 無表情で気の利いた会話も出来ない僕は、

 表情豊かで社交性も高く、誰からも愛される君の片割れを演じることで、

 その不器用さを誤魔化して生きてきた。
 
 そして、これからもそうして生きていく。

 そこに変更の余地はないし、する必要も全く感じない。

 もうこれで分かっただろう、ヴィヴィ?

 僕がこれから生きていく、そのためには、ヴィヴィ――君が必要なんだよ」

「……クリス……?」

 ヴィヴィはクリスの説明を聞いて、よけい混乱を来たした。

(何を言っているの、クリス……?

 クリスが不器用……?

 冗談も大概にして欲しい。

 クリスの人となりを知る人間皆が、貴方を不器用だなんて思ってなんかいない。

 誰よりも思慮深くて、誰よりも情の深いクリスは、誰よりも器用なのにっ)

 クリスはヴィヴィの混乱をよそに、うっとりと微笑んだ。

 ヴィヴィはその表情に、はっと目を見張る。

 自分とそっくりなのに、明らかに男のものであるその輪郭に浮かぶ、色鮮やかな微笑み。

「―――っ!?」

(……クリス……っ 貴方、一体――?)

 今まで見たこともない、心底妹を愛おしそうに見つめてくるクリスの表情に、ヴィヴィは何故か一瞬、魂が抜き取られたような虚脱感を覚えた。

 それほど、クリスの微笑みには凄みがあった。

 ヴィヴィの華奢な体が、小刻みに震え始める。

 それは恐怖によって生まれたものか、他に心震わす何かによって生まれたものなのか、ヴィヴィ自身にも分からなかった。

 まるでその震えを確かめるように、クリスは両手でヴィヴィの頬を撫で回す。

 その長く細い指先が、ヴィヴィの輪郭を確かめるように、ばらばらに這わされる。

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