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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第75章            

 そして、ぐっと自分の顔をヴィヴィに寄せた。

 互いの唇が触れるか触れないかの距離まで詰めたクリスは、少し擦れた甘い声でヴィヴィに囁いた。

「愛しているよ、ヴィヴィ。

 だから、僕は決して、君の片割れでいることを辞めないし、

 君にもその役割を放棄することを、絶対に許さない――」

 薄い唇から零されたその言葉は、まるで歌を唄っているようにも聞こえる程、滑らかだった。

 唇に触れるクリスの熱い吐息に、ヴィヴィの瞳までがふるりと震えた。

(クリス……、貴方っていう人は、本当に――っ)

「……My better half――」

 何故かその言葉が、すっとヴィヴィの口から零れ落ちた。

 一瞬表情を緩めたクリスが、瞳を眇め、にやりと嗤う。

「……いいね、それ――」

 My better half――。

 直訳すれば「私の伴侶」という意。

 けれど、その言葉が“今迄の自分達”には、ぴたりと当て嵌まる気がした。

 それは綺麗事なんかじゃない、生まれてからずっと時間を掛けて育んできた、二人だけの真実。

 貴方が泣いていると、自分も泣きたくなる。

 貴方が苦しんでいると、自分は更に苦しくなる

 貴方が喜んでいると、見ている自分まで嬉しくなる。

 苦しいことは半分個に。

 嬉しいことは一緒に。

 自然に共有したいと思えてしまう、無償の愛を与えられる存在。

 切っても切れない。

 離れようとしても離れられない。

 自分の“半身”。

 それが“今迄の自分達”――。

 そしてクリスは、“今後も”ヴィヴィにそれを演じることを望んでいる。

 いや、強要しているように見せ掛けている。

 全ては、出来損ないの妹である、ヴィヴィを救うため。

 ヴィヴィに今まで通りの日常を与えるため。

 悪ぶって、『自分の利害の為だけに、妹にその役を務め上げる事を強要している』のだ。

「………………」

 ヴィヴィは瞳を細め、目の前のクリスの瞳を見つめる。

 ずっと見つめ続けても全く揺らがない、澄んだその灰色の瞳。

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