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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第75章            

 妹の顔を包んでいた両手が離れたかと思うと、クリスの頬に添えていたヴィヴィの両手が掴まれ、そこから離される。

 そして妹の耳に唇を押し付けたクリスから、もたらされたその “言葉” に、ヴィヴィの瞳が驚愕で見開かれた。

「……――っ クリスっ!!」

 薄い唇が震えながらその名を呼び、やがて苦しそうに引き結ばれる。

 そしてヴィヴィは、20センチ程背の高いクリスの首にしがみ付いて、そのまだ華奢な体を抱き寄せた。

(クリス……っ ヴィヴィもっ ヴィヴィも――っ!!)

 力の限り兄を掻き抱くヴィヴィとは対照的に、クリスはその妹の背を、ポンポンと柔らかく叩いていた。

 それが余りに優し過ぎて、ヴィヴィの涙腺が崩壊しそうになった時、

「……眠、い……」

 クリスから零された場違いな言葉に、ヴィヴィは目が点になる。

「……へ……?」

 間抜けな声を上げてしまったヴィヴィに、クリスがずしりとその体重を預けてくる。

(お、重い……)

 ヴィヴィが何とかクリスを支えていると、その双子の兄はまたぼそりと呟く。

「……ここんとこ、眠れなくて……」

 その甘えた声音に、ヴィヴィは一瞬の空白の後、破顔した。

「ふふっ クリス、おいで……?」

 そう言って両腕の抱擁を解いたヴィヴィに、クリスは預けていた体重を取り除く。

 ソファーに腰を下ろしたヴィヴィの太ももに、クリスがこてと頭を預け、ソファーの上に横になった。

 「ふわわっ」とあくびをしたクリスが、ヴィヴィの片手を掴み、まるで髪を撫でろという風に、自分の頭に誘導する。

 求められなくてもそうしたかったヴィヴィは、ゆっくりと指先でクリスの金髪を梳いた。

(ずっと、こうしたかったよ、クリス……。この一週間、ずっと――)

「……気持ち、いい……」

 まるでヴィヴィの気持ちが伝わったかの様に、クリスがそう囁く。

「ふふ……。おやすみなさい、クリス……。いい夢を――」

 ヴィヴィがそう言い終わった数秒後、クリスからは、す~す~と規則正しい寝息が聞こえてきた。

「………………」

 柔らかく細められていたヴィヴィの瞳が、徐々に辛そうに変化していく。

 けれどその指先は、いつまでも柔らかく、クリスの髪を撫でていた。

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