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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第75章
(ありがとう、クリス……。
狡いヴィヴィを、許してくれて――)
そう心の中でクリスに感謝したヴィヴィは、その薄い唇をぐっと引き結ぶ。
(そして、ごめんなさい、クリス、お兄ちゃん……。
ヴィヴィはやっぱり、どちらも選べなかった――)
ふぅと深く息を吐き出したヴィヴィは、空いているほうの手で、ナイトウェアの胸を鷲掴みにした。
(認めよう、“狡い自分”がここにいること。
替えの利かない大切な家族を失いそうになっても、
それでも、自分の欲望を諦め切れない、
どこまでも貪欲に、お兄ちゃんを欲する自分がいることを……)
そう心の中で自分を認めたヴィヴィは、すっと空気が動く気配を察知した。
音もなく開かれたリビングと廊下を結ぶ扉の先、朝比奈が立っていた。
「お嬢様? おは――」
「しっ!」
朝比奈の朝の挨拶を、唇の前に人差し指をかざして遮ったヴィヴィは、その指で自分の膝を指し示す。
静かに入室してきた朝比奈が、ソファーの背もたれ越しに、ヴィヴィの膝で眠るクリスを確認し、一瞬の驚きの表情の後、とても安心した顔で微笑んだ。
ヴィヴィもにこりと微笑み返す。
朝比奈は静かに、ヴィヴィのウォークインクローゼットへと入って行く。
そして戻ってきた執事は、クリスとヴィヴィの体に、それぞれブランケットを掛けてくれた。
「ありがとう」
小さな声でそう礼を言ったヴィヴィに、朝比奈が銀縁眼鏡の奥の瞳を細めた。
朝比奈はスーツの懐から懐中時計を取り出すと、今から1時間後の時間を白手袋で包まれた指先で指し示し、静かに退室して行った。
その後ろ姿を微笑みながら見送っていたヴィヴィの表情が、ゆっくりと移り変わり、深刻なものへと変化していく。
肩に掛けられたブランケットを胸元でかき集めたヴィヴィは、その手でぎゅっと心臓のある場所を圧迫する。
その瞳は、自分の膝に身も心も委ねて眠る、クリスへと落される。
(そして、自覚しよう。
どれだけの犠牲を払って、どれだけの人を裏切って、
自分本位なこの恋が、ここに存在しているかを――)