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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第76章
(大人になりたい。
自分の言動の責任を、全て自分で取れる人間になりたい。
助けられるばかりじゃなく、周りを助けられる存在になりたい。
自分はいつか、そんな人間になれるだろうか――?)
1月12日(土)~1月14日(月・祝日)、スターズ・オン・アイス 東京公演。
本来、大阪と東京での公演だが、「受験勉強で遠出は無理」と双子が主張した為、東京公演のみの出演になった。
会場の有明コロシアムの特設リンクで、朝も早よからグループナンバーの振り付けを受けたヴィヴィは、ストレッチルームへと移動して復習していた。
「ロシェット姉さん、こうですか?」
ヴィヴィが振り付けを反復し、ジェニー・ロシェットに確認する。
「ちがうっ こうよっ こう!」
ロシェットはヴィヴィの頭を掴むと、ぐきっと違う方向へ傾け、体の方向を変える。
「おおっ! こうっすね?」
「Exactly――その通りっ」
カナダのプロスケーターのジェニー・ロシェットが、胸の前で腕組みしながらうんうん頷く。
「ジェニー・ロシェットさん、会場の照明・音響チェック確認、お願いします」
運営スタッフがそう呼びに来て、ヴィヴィは付き合ってくれた彼女にお礼を言って別れた。
自分の会場チェックももうすぐだと思い、ヴィヴィは軽くストレッチをすると、アリーナへと向かう。
寒い会場に入ったヴィヴィは、すぐ傍の観客席に座っているクリスに気づき、近づいていく。
「クリス~、何してるの~?」
そう声を掛けて隣に座ると、クリスがまるで暖を求めるように、ヴィヴィに抱き着いてくる。
「はぁ……」
小さくそう嘆息したクリスに、ヴィヴィはその腕の中で首を傾げる。
「どうしたの? 溜め息なんか付いちゃって」
抱擁を解いたクリスの膝の上で、スマートフォンが振動する。
何故かそれをどんよりした瞳で見下ろしたクリスは、手に取り相手を確認し、また溜息を付く。
「あっ! もしかして、彼女からのメール?」
ヴィヴィがぱっと表情を明るくしてクリスを見つめれば、
「うん……」
とクリスは返事するが、どうも浮かない顔に見える。
「どうしたの?」
(なんか、顔、暗いけど?)
ヴィヴィの目の前で、クリスがだらりとうな垂れる。