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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第76章           

 ヴィヴィの胸の奥がずきりと痛みを感じ、何故かそれは薄らぐ事無く、どんどん重くなっていく。

「本当は、合わせる顔なんて、無いんだけど……」

 ヴィヴィは泣きそうな声でそう呟くと、ずるずるとデスクに突っ伏した。

(ヴィヴィは、お兄ちゃんを裏切った。

 お兄ちゃんを力づくで奪った張本人なのに、

 こんな状態へと引き擦り込んだ張本人なのに、

 お兄ちゃん “だけ” を選べなかった卑怯者。
 
 こんな事がバレたら、本当にヴィヴィは、捨てられる――)

 その底なしの恐怖に、ヴィヴィの華奢で頼りない肩が震え始める。

 もうおかしくなりそうだ。

 こんなに前進も後退もならない状態が続くのなら、いっそ、捨てられた方がいいのかも、とすら思ってしまう。

 けれどそうしたら、きっと自分はスケートを失ってしまう。

 兄は絶対に自分を許さないだろうから。

 自分の妄執に巻き込んで貶めた上、自分よりもクリスを選んだと知ったら、絶対に許さない。

「………………」

 デスクの上のヴィヴィの頭が、ゆっくりと持ち上がる。

 そこにあるのは、苦しみの表情でもなく、辛そうな表情でもなく、泣きそうな表情でもなく。

 ただただ、失望した表情――。

(違う、か……。

 ヴィヴィは『クリスを選んだ』んじゃない。
 
 ただ、クリスに押し付けただけ。

 自分で決断の出来ない、自分の行く末を、

 双子の兄に丸投げし、押し付け、決断させただけ――)

 ヴィヴィの両手が組まれ、それは震えて、前髪から覗く白いおでこに付けられる。

 もう、嫌だ。

 自分を好きになれるところが、何ひとつ見つからない。

 匠海にも、

 クリスにも、

 周りの皆にも、

 愛して貰える価値のある『自分』が、全く見出せない。

 恋愛とは、こんなものなのだろうか?

 憧れていた恋とは、こんなものだったのだろうか?

 「恋に恋するオーロラ姫」。

 それすらも、今の自分には演じることが出来そうにない。

 唯一自信のあった、「匠海に恋する自分」を見失ってしまった、今の自分には――。








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