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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第76章
(そんな風に、考えちゃ駄目だよね……。うん、心配してくれる人だって大勢いるんだし。それに、マスコミの人達だって、仕事なんだし……)
前向きに考えて、空港前に待たせてある車に乗り込もうとした時、
「ヴィクトリア選手! 日本中のファンが、貴女の事を心配し、注目しているのですよ? 一言で良いので、メッセージをお願いしますっ」
一際大きな、まるでがなり立てる様な声でそう言ってきた記者の声に、ヴィヴィは咄嗟に振り返った。
「ヴィヴィ、いいから、乗って」
牧野マネージャーが厳しい声で、ヴィヴィを車に押し込もうとする。
「……牧野マネージャー、一言だけ……」
ヴィヴィが牧野マネージャーを見上げながらそう言うと、不安そうな表情が返ってくる。
「……大丈夫?」
「はい」
きっぱりと返事をしたヴィヴィに、牧野は頷いて報道陣を振り返った。
「篠宮ヴィクトリア選手から、一言だけコメントします。皆様、どうか静粛に願います」
声を張り上げてそう言った牧野に、報道陣は一斉に沈黙し、沢山のマイクとカメラがヴィヴィに向けられた。
ヴィヴィはごくりと唾を飲み込むと、ぐるりと報道陣を見回した。
白いダウンジャケットの前で両手を握ったヴィヴィは、少し震える唇を開く。
「私の今回の成績で、皆様にご心配をお掛けし、申し訳ございません。FPの点数は妥当だったと思っています。正直、フリーでの自分は集中力に欠けていて、エレメンツを熟すだけで精一杯の状態でした。1ヶ月後の世界選手権では、もっと良いものをお見せできるよう頑張りますので、見守って頂けると嬉しいです」
そう何とか言い切って、ぺこりと頭を下げたヴィヴィの顔色は悪く、そのせいかあまり報道陣も追及してこなかった。
「失礼します」
ヴィヴィがそう言うと、また報道陣が騒がしくなったが、今度こそ車に乗り込んで一行は羽田空港を後にした。