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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第76章
(あと、1ヶ月後の世界選手権……。
せっかく英国であるのに。親族みんなが観戦に来てくれるって……。
お兄ちゃんも、来てくれるのに……、また上手く出来なかったら……。
みんなの期待に、応えられなかったら……)
「――っ ヴィヴィ!?」
鋭い声で呼ばれ、ヴィヴィははっと顔を上げた。
声のしたほう、ヘッドコーチのジュリアンが、困惑顔でヴィヴィを見つめていた。
「ヴィヴィ……。思春期だし、色々あるんだろうと思う。言わないだけでね……。でもあなた、世界選手権でもこんな演技していたら、確実に台落ちするわよ――」
「……は、い……」
それでなくても暗いヴィヴィの瞳が、さらに昏く曇った。
「じゃあ、さっそく明日から、メンタルトレーニングを組み込みます。経過は追ってご連絡しますので」
空気を変えるように発せられた、明るい柿田トレーナーのその声に、皆が頷いて立ち上がる。
ガタガタと椅子が引かれる音の響くミーティングルームの中、ヴィヴィは座り込んだまま、ただただ当惑するばかり。
「ヴィヴィ、一緒に頑張ろう」と牧野マネージャー。
「そうだよ。一人で抱え込むな。チームでやってるんだし」とサブコーチ。
「そうそう、出来ることは沢山あるから、ひとつひとつ試してみよう?」と柿田トレーナー。
「私、元気になるレシピ、張り切って作っちゃうから? ね? 元気出して?」と管理栄養士。
皆に温かい言葉で励まされ、ヴィヴィは立ち上がって頭を下げた。
「すみません、アクセル不調に続き……。あの、自分も頑張るんで、ご協力お願いしますっ」
そう必死な声で言ったヴィヴィを、チームの皆が「大丈夫」「一緒にやろう」と励ましてくれた。
何とか笑みを浮かべてミーティングルームを後にしたヴィヴィは、とぼとぼとストレッチルームへと向かった。
中にクリスがいることに気付き、ヴィヴィは近づいていく。
「終わったの……?」
ストレッチマットの上、体幹トレーニング中のクリスが、ヴィヴィを見上げてくる。
「うん……メンタルトレーニング、取り入れるって」
ヴィヴィはそう言うと、すぐ傍に置いてあったメディシンボールをクリスに放る。