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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第77章
(うん……。ヴィヴィ、1日5回どころか、前から1日10回は「ありがとう」って言えてたし。毎日サボらず、スケートの練習も、勉強も続けられてる)
それに――、
「お嬢様、頼まれておりました、オレンジブロッサムがご用意出来ました」
「わ! ありがとう~、朝比奈」
就寝支度も整い、後は寝るだけの時間。
ヴィヴィは「自分を楽しませてあげる」時間を持っていた。
朝比奈から頼んでおいたハーブを受け取ると早速開封し、透明なティーポットに入れて熱湯を注ぐ。
オレンジブロッサムは、ビターオレンジ(ダイダイ)の花びら。
オレンジの花の奥深い香りは、アロマテラピーではネロリと呼ばれる。
ハーブが抽出されるまでの2分間、ヴィヴィは辺りに広がる癒される香りに包まれながら、商品の説明書きを読む。
「ええと、お茶の効能は、鎮静作用、健胃作用、強壮作用、うつ病、不眠症を改善……。ふうん、血液も綺麗になるんだ」
2分経ってティーカップに注ぐと、あまりの香りの良さに、ふにゃりとヴィヴィの頬が緩む。
一口飲んで、さらに締まりのない顔になったヴィヴィに、朝比奈が微笑む。
「お嬢様はハーブティーを自分でお淹れになられてから、とてもリラックスしたお顔をされるようになりましたね」
「そ、そう?」
「ええ。見ている私も幸せな気分になります」
そう言った朝比奈の表情はとても幸せそうに見えて、ヴィヴィは頬を染めた。
「……――っ あ、ありがとう」
(ヴィヴィを見て、少しでもそう思ってくれるの、嬉しい……)
ヴィヴィはカップをソーサーに戻すと、テーブルに置き、恐るおそる口を開いた。
「あのね……、ヴィヴィ。ここ数年、ずっと自分のこと嫌いで……。
で、今、自分を好きになるように、頑張ってるの……。
これも、その一つで……、周りに楽しませて貰うのじゃなくて、
自分で自分を、楽しませてあげてるの……」
何度も途切れそうになりながらも、ヴィヴィはそう口にしていた。
本当は誰にも話すつもりはなかった――親兄弟や友達にも。
でも何故か、物心付いた頃から傍に居てくれている朝比奈には、話したいし聞いて欲しいと強く思った。