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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第77章
2月後半の土曜日。
ヴィヴィはスケートも勉強も就寝支度も全て終え、可愛らしいルームウエアを纏い、防音室のソファーで一人うんうんと唸っていた。
その両手に握られているのは、SP『ペール・ギュント』の戯曲大全集。
(う~~ん。今シーズン、これ何度も読んだし、グリーグ作曲の劇音楽『ペール・ギュント』だって何度も聴いたのに……、分かんない……)
ヴィヴィの頭を悩ませているのは、このプログラムを振付けてくれた宮田先生が、振付後にくれた言葉。
『僕がこの選曲をした理由を、
今シーズンを通して、じっくり考えてみて?』
それをずっと今シーズン探し続け、もう後に残る公式戦は、3月の世界選手権のみだ。
本当は今シーズンの最終戦は、4月11日~14日に行われる国別対抗戦だったのだが、双子は受験勉強のため、早くに出場を辞退した。
しかし、
「に、日本の男女エースの二人共が、出場しないだなんてっ! 視聴率取れなくて、大会が運営できないでしょうっ!?」
とスケ連とスポンサーに怒られた結果、受験生だけれど “高校2年の2月にしてもう東大合格確実” のクリスだけ、国別対抗戦に出ることになった。
(ヴィヴィ、馬鹿で、すんません……)
ヴィヴィは心の中で、クリスとスケ連とスポンサーに手を合わせて謝ると、またうんうん唸りながら戯曲を読み込む。
もう読み過ぎて、冊子の隅が丸くなっている。
主人公ペール・ギュントという人間は、本当にどうしようもない男、荒唐無稽で場当たり的な人間。
物語は40年に渡り、ノルウェーの大渓谷の村から山の魔王の宮殿、暗闇、モロッコの海辺にサハラ砂漠、カイロの精神病院、嵐の海、墓地、荒野などをペールが彷徨う、破天荒な冒険譚、壮大なファンタジー。
(ふむ……)
ヴィヴィはすくとソファーを立ち上がると、漆黒のグランドピアノへと近づく。
譜面台に一枚の楽譜を乗せると、鍵盤に指を下す。
細い指先から奏でられるのは、劇音楽『ペール・ギュント』の中でも最も有名な一曲――ソルベイグの歌。
この曲は、出て行ったきり帰ってこない主人公ペールを待ち続ける、婚約者ソルベイグの歌。