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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第77章              

 40年にも渡り、女をとっかえひっかえしているペールの帰りを待ち続けるなど、ヴィヴィからしたら信じられない。

 ペールは20代の頃、婚約者ソルベイグを村に置き去りにし、各地を転々とし女性達に出会う。

 数年後、深い森の中に建てた小屋に住んでいたペールの元に、「全てを捨てて貴方を追ってきた」とソルベイグが現れる。

 しかし、ペールはソルベイグに「ここで待つんだよ」と言い置き小屋を出、また各地で女と関係を持ちながら、場当たり的に夢や富を求め彷徨い続ける。
 
 50歳を超えた頃、その小屋でソルベイグが糸を紡ぎながら歌うのがこの曲だ。
 



冬が過ぎると 春は急ぎ足で去り

夏が行けば 年の終わりを迎えるだけ



貴方は、きっと私の元に帰ってくる

私には分かっているの

だって、私達は約束したのだから――



神様はいつも、貴方を見ている

貴方の祈りに 応えてくれるはず



だから 私はここで貴方の帰りを待つの

でも今 もし貴方が天国にいるのなら

すぐにでも私を呼んでほしい




 60歳の頃、ようやくペールはソルベイグのいる小屋へと、命からがら帰ってくる。

 ソルベイグの美しかった金髪も白髪になり、老いたその手には杖が。

 ペールは問う。

「俺が今まで、どこにいたか言ってみろ!」 

 ソルベイグは答える。

「貴方がいたのは、私の信仰、私の希望、私の愛の中よ――」

 ソルベイグの膝の中で息絶えるペールの為に、彼女は子守唄を唄い続ける。




「ん~~っ 無理っ! ヴィヴィには、無理だわ~……」

 弾き終えたヴィヴィは、そう浅い感想を漏らすと、もう一度その歌詞を読み返す。

 「自分には無理」と言っておきながら実のところ、ヴィヴィはこの婚約者のソルベイグが羨ましくてならない。

 それだけ人を愛せる事、愛し抜く事が出来る事は凄い事。

 例えそれが、盲目的な愛であったとしても――。

「………………」

 ヴィヴィは歌詞から視線を上げると、考え込む。

 付き合うってなんだろう

 婚約って、結婚ってなんだろう

 もし、匠海が自分を愛してくれたら、二人はどういう関係になるんだろう

 付き合っている恋人?

 将来を誓い合った男女?

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