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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第77章
結婚も出産も出来ないけれど、互いを信じあって生きていく男女、になるのだろうか?
(なんというか……結局、全ての関係の根底にあるのは “信頼関係” ……なんだよね?)
それはきっと、結婚という最終地点に到達してしまったかに見える夫婦においても、言えることなのではないだろうか。
(まあ、ペールとソルベイグの間に “信頼関係” があったかどうかは定かじゃないけど、ペールは本当に幸せ者だよね~。ずっと自分を愛してくれる人が、40年も自分の帰りを待っていてくれるんだもの……。なんで、ペールはその事を、死ぬ直前まで気づく事が出来なかったんだろう……?)
全く駄目な男だ……と心の中で毒づいていたヴィヴィの瞳が、はっと固まる。
「……――っ っ……、そうかっ! そう、か……、分かった……っ」
ヴィヴィはそう叫ぶように言うと、がたりと音を立てて、ピアノの長椅子から立ち上がる。
その小さな顔には、驚きの感情と、やっと謎が解決したという安堵感が浮かんでいた。
(やっと……、やっと宮田先生がこの曲を選んでくれた理由が解った……。
このプログラムには、ヴィヴィへのメッセージが、込められていたんだ……)
ヴィヴィは開けたままだった口に、細い両手をかざす。
その指先は震え、大きな瞳には涙が込み上げてくる。
宮田がこのプログラムに込めたもの、それは――、
様々な情報や魅力的なものごとに翻弄され、
“自分” や “自分にとって一番大事なもの” を見失うなという、
ヴィヴィへのメッセージ。
「……――っ」
ヴィヴィは両手の中で、ひっくとしゃくり上げる。
この振付を選曲から何から全て、宮田に一任したヴィヴィの心中は、一任したと言うよりは丸投げしたと言ったほうが正しかった。
匠海に殺されかけて捨てばちになった自分は、『周りが見たい理想の自分』を演じて生きていこうとしていた。
それを宮田は見抜いたのだ。
何を驕った事を言っているんだと――。
“自分” を持ってない人間の演技など、誰が観たいか。
“自分にとって一番大事なもの” すら見失った人間が戦って行けるほど、
この世界は甘くない。