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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第77章
そして宮田の読み通り、「周りの期待に応えなければ」と自分を追い込んだヴィヴィは、3回転アクセルが飛べなくなったし、「自分が嫌い」になったヴィヴィは、四大陸選手権のFPで最低の演技評価を受けた。
ヴィヴィの涙が掌を伝い、防音室の床へと降り注ぐ。
(気付けて、良かった……。気づく事が出来て、本当に良かった……っ)
「宮田先生……、ありがとう、ございます……っ」
ヴィヴィは震える声でそう言うと、誰もいないそこへ向かって深く頭を垂れた。
そうせずにはいられなかった。
(ジャンナも、ありがとう……っ)
ふくよかなロシア人振付師の顔を思い出し、ヴィヴィはまた頭を下げる。
『今のヴィヴィには変わって欲しいから……。
普通の16歳の女の子、恋に恋するような少女になって欲しいから』
匠海に殺されかけ、自分だけ傷ついた顔をしていたヴィヴィに腹を立てながらも、これからの自分を考えてFPを振付けてくれたジャンナ。
そしていつも自分を支え、導いてくれるチームスタッフ。
素の自分に戻る場所を与えてくれる、幼馴染 兼 クラスメイト。
そして、自分の汚いところも全て許し、受け入れてくれたクリス。
他にも沢山、両親や親族や、ファンも。
こんなにも多くの人に支えられている自分が、申し訳なくなる一方で、嬉しくなる。
(ヴィヴィ、これだけの素晴らしい人達に、支えようと思って貰える人間だったんだ――)
また一つ、自分の事が好きになれた気がした。
ヴィヴィは涙を拭うと、はぁと息を吐き出す。
「絶対に、世界選手権で満足出来る演技、してみせる……っ」
そう力強く発したヴィヴィの瞳には、迷いはなかった。
自分が皆に出来る最高の恩返しは、絶対にそれなのだから――。