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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第77章
3月3日(土)。女の子の日。
ヴィヴィは鍵をかけた書斎に籠もり、PCとにらめっこしていた。
液晶に映っているのは、もちろん英国にいる匠海。
「おはよう、お兄ちゃん」
ヴィヴィはそう挨拶すると、灰色の瞳を細める。
「おはよう、ヴィクトリア。今、東京は17時くらい?」
匠海は腕時計を確認しながらそう返してくる。
少しだけ、返答にタイムラグがある。
「うん。オックスフォードは8時くらいだよね? あれ、スーツ?」
画面の中の匠海は、茶系のスーツを着ていた。
「ああ、今から英国支社行くから」
そう言って肩を竦めて見せる匠海に、ヴィヴィの顔がにんまりする。
茶系のスーツに白襟の水色シャツ、そして深い青色のネクタイがしっくりきて、兄によく似合っている。
「かっこいい~。お兄ちゃんスタイル抜群だから、本当に何でも似合う」
「それはどうも」
困ったように少し視線を泳がせる仕草が、なんだか可愛い。
「ね、立って全身見せて?」
ヴィヴィが両掌を上に上げて「立って立って」とおねだりするが、匠海は「嫌」と短く断った。
「ちえ~、ケチんぼ。でも、休日なのに大変だね……。無理、しないでね?」
「大丈夫。俺よりお前のほうが心配」
匠海のその返しに、ヴィヴィは小さく首を振る。
「ヴィヴィは大丈夫。だって、その道のスペシャリストが、体調管理してくれてるからね~」
管理栄養士に料理長、柿田トレーナーと、自分は色んな人に助けられている。
「そうだな。でも、お前はすぐに無理するから、心配なんだ」
そう言って、愛おしそうにカメラに向かって手を伸ばしてくる匠海に、ヴィヴィの薄い胸が疼く。
「………………」
(もう何日……、お兄ちゃんに触れてないんだろう……。
あの指先を、熱い掌を、直に感じたい……)
「ね、お兄ちゃん……」
「ん?」
ヴィヴィの呼びかけに、軽く頬杖をついて相槌を打つ匠海。
その表情がとても落ち着いたものだったので、ヴィヴィも落ち着いて自分の気持ちを舌に乗せた。
「ヴィヴィ……、お兄ちゃんのこと、好き。愛してる」
「……どうした? いきなり」
ヴィヴィの言葉が意外だったのか、画面の中の匠海は、すこし面食らって見える。