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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第77章              

「ん……、なんか、言いたくなったの」

 なんか口にしてから恥ずかしさが出てきて、ヴィヴィはそうもごもごと呟く。

「ふ……っ 可愛いな」

「え?」

 まさかそんな返事が返ってくるとは思っていなかったヴィヴィが、瞳を瞬かす。

「ヴィクトリアが2歳の頃……、よく『おにいちゃま、あいしてる』って舌っ足らずな声で、可愛く言ってくれたんだ。それ、思い出した……」

 頬杖をついていた匠海が両指を組み、その上に顎を載せてカメラを覗き込んでくる。

 その切れ長の瞳には、懐かしさが溢れていたが、もちろんヴィヴィはそんな昔の事は覚えていない。

「お兄ちゃんは、なんて答えてたの?」

「俺? もちろん『僕も愛してるよ』って。まだ、純粋な少年だったからね」

 そう言って片眉を上げてみせる匠海に、ヴィヴィは苦笑する。

「今は純粋じゃないんだ?」

「ああ、世間の荒波に揉まれ、薄汚れてしまった」

「あははっ! なんか、昭和の歌詞みたい」

 両手の上の頭をがくりと倒した匠海に、ヴィヴィは笑顔でそう突っ込んだ。

「ふ……。可愛いヴィクトリア……。早くお前に触れたいよ……。抱きしめたい」

 匠海の瞳が、寂しそうにも愛おしそうにも見える様に細められ、ヴィヴィの胸が詰まる。

「……――っ ヴィヴィもっ」

「お前に会えるまで、後2週間くらいか」

「うん……。あ、クリスが3月12日、ヴィヴィは13日に現地に入るよ」

 クリスのSPが13日なので、そのリンクサイドに立つため、ヴィヴィはその日に入る。

「そうか。俺は16日(金)まで講義びっちりだ……。多分ヴィクトリアのFPには、間に合うと思うけれど」

 その匠海の返しに、兄がどれだけ忙しい合間を縫って、応援に駆けつけてくれるか、ヴィヴィは再認識する。

 大学が終われば英国支社に直行し、休日もほぼ会社に行っている匠海が、その週末全てを自分達の応援に充ててくれるのだから、絶対にいい演技で恩返しをしたい。

「そっか……。あ、でも、来てくれるだけでとっても嬉しいから、あんまり無理はしないでね?」

「大丈夫。オックスフォードとバーミンガムは、近いんだから」

 世界選手権の開催されるバーミンガムとは、近いといっても90kmも離れている事を、ヴィヴィはちゃんと知っている。

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