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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第77章
「でも、もっと時間のある時だったら良かったな。お前達をオックスフォードに案内したかったよ。特に、ヴィクトリア。オックスフォードは『不思議の国のアリス』に“ゆかり”のある地なんだよ」
「え? そうなの?」
「作者のルイス・キャロルが、クライスト・チャーチ(オックスフォード大学のカレッジの一つ)で教鞭を取っていたからね」
「アリス関連のお店があったりする」と続けた兄に、ヴィヴィは悔しそうな表情をその小さな顔に浮かべた。
「え~……。行ってみたかった……。受験生じゃなきゃ、学校休んででも、行ったんだけど……」
なにせ双子は受験生ということで、メディアへの露出や、アイスショーへの出演を抑えさせてもらい、必要最低限の公式戦への出場、を許して貰っている立場なのだ。
観光している余裕があるなら、世界選手権後のスポーツ番組数件に出演しろ、と言われてしまう。
「まあ、大学生になったら、春休みも夏休みも大量にあるから、少しは旅行出来るようになるんじゃないか?」
その匠海のフォローに、ヴィヴィは小さく頬を膨らます。
「でも、その頃にはもう、お兄ちゃん帰国してる~」
「まあな。……じゃあ、そろそろ……」
匠海は腕時計で時間を確認し、スカイプの終了を告げてくる。
「あ……あと、一言だけっ! あ、あのね……?」
ヴィヴィは焦って、そう言い募る。
「どうした? 赤い顔して」
「ん……。ヴィヴィFPの日……。多分、日付変わってからじゃないと、その……お兄ちゃんのお部屋、行けないかも……」
女子シングルのFPは19時~22時迄で、その後にISU記者会見やドーピング検査(くじ引きで当たれば)、メディアへの最低限の対応、片付け等があるので、全てが終わるには、どうしても日付が変わるころになってしまう。
「ああ。大丈夫だよ。たぶん両家の親族一同で、飲み明かしてるだろうし」
父の親族・オーウェン家と、母の親族・ワイアット家、両家からたくさんの親族が応援に来てくれる。
互いに顔を合わすことも少ない両家が一堂に会すので、レストランを貸し切り、ディナーパーティーを催すらしい。
「それも、そだね」
きっと自分も、そのパーティーに顔を出すことになるのだろう。