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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第15章                

 まだ寒い3月初旬、BSTでは中等部の卒業式がとり行われていた。

 檀上では3年間、一度も主席を明け渡さなかったクリスが、よく通る声でスピーチを行っていた。

 暗めの金髪には金色の房が付いた紺色の角帽が乗っており、式典用にジャケットを着用した制服の上からは、紺色のローブを羽織っている。

「私事ですが中等部に在籍していた3年間、とても密度の濃い体験をしました。スケートでノービスからジュニアへ上がり、そして去年はシニアへの参戦も経験しました。それはひとえに多くの友人や教諭達に、支えて頂いたおかげです。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

『たまらなく好きなものを見つけなければならない』――この言葉はとても有名ですね。2005年に行われた米国スタンフォード大学の卒業式にて、故スティーブ・ジョブズ氏が卒業生に送った言葉です。

僕はこの言葉は簡単に聞こえてとても難しいことだと思います。僕は幸運なことに生まれた時から『たまらなく好きなもの』に触れ合って来れましたが、卒業生の中には、もしかしたら教諭陣の中にもまだ『たまらなく好きなもの』に巡り合えていない人は多くいるのではないでしょうか。

今好きなことが将来『たまらなく好き』になるかもしれないし、今大嫌いなことが将来そうなるかもしれません。だから見つからないと不貞腐れるのではなく、見つけられるよう努力をしましょう。一日、ひと月、一年を大事に過ごしましょう。そうすればいつか、僕達は『たまらなく好きなもの』に巡り合ったとき、すぐにそれに熱中出来るでしょう。僕のスピーチは以上です。ご清聴ありがとうございました」

 クリスのスピーチが終り、講堂は大きな拍手で埋め尽くされた。

 その拍手が小さくなり始めた頃、ピアノの伴奏が始まり、ヴィヴィ達卒業生が壇上へと駆け上がる。

 卒業生総勢20名は2列になると、卒業式の3ヶ月前から練習してきた Season of love を合唱する。

 皆笑顔で大声で歌う。

 正直卒業式といっても、全員エスカレーター式に高等部へと進むのだ。

 だから悲しみよりも、高等部での生活への楽しみのほうが大きかった。

 最後はお決まりの、角帽を空へと放り投げるセレモニーを行い、卒業式は終了した。






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