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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第78章
(うん。ヴィヴィは頑張った。
ちょっと自分を好きになれたし、好きになる努力をした。
だから、世界選手権というこの最高の舞台は、自分へのご褒美。
楽しもう――っ!!)
「梅おにぎり美味しい~っ 生姜漬けも美味~っ」
そう幸せそうに叫んだヴィヴィは、口の中のものを飲み込むと、「御馳走様でした」と手を合わせ、FPの準備をするため立ち上がった。
女子シングル、FPのリンクサイド。
最終グループの第3滑走者のヴィヴィは、前に滑る第2滑走者の演技を見るともなしに見つめていた。
(うん……6分間練習では、ちゃんとエレメンツの確認も出来たし、頭の中にはFPの良いイメージが出来上がってる。後はいかに気持ちを乗せて滑られるか――)
広大な観客席へと視線を移す。
今季のFP用に作られたらしい、FPのピンクの衣装を纏ったヴィヴィが描かれたバナー(横断幕)。
そこかしこにいる日本の旗を持った観客。
応援してくれる、皆の期待に応えたい。
そして、自分自身の期待にも応えたい。
ヴィヴィは観客席から視線を外すと、斜め後ろに控えているクリスを振り返り、じっと見上げる。
「ヴィヴィ、可愛い? 愛らしい?」
突然真顔でそんなことを尋ねてくるヴィヴィにも、クリスは驚いたりしない。
一歩近づいたクリスは、ヴィヴィの編み込みのなされた金色の頭に、掌を乗せてくる。
「うん。とっても可愛いし、この世で一番愛らしい……」
優しい瞳で覗き込みながらそう言ってくれたクリスに、ヴィヴィは満面の笑みを浮かべる。
「うふふっ ありがとう」
(クリスならそう答えてくれると思って、聞いちゃった、ごめんっ)
ヴィヴィは心の中でそう謝ると、ペロリと小さく舌を出す。
「クリスも可愛いし、最近、カッコいいよ?」
本当にそう思って、小さく首を傾げてクリスを覗き込むが、
「それは、どうも……」
いつもの無表情でそう返され、ヴィヴィはまた微笑む。
(うん。そうだ、お兄ちゃんもいっぱい「可愛い」って言ってくれたし、朝比奈も「可愛らしい」って言ってくれた。ヴィヴィもなるんだ、誰からも可愛がられる、無条件で愛される『愛らしいオーロラ姫』に)