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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第78章
「ヴィヴィ、入って!」
リンクのフェンス傍にいたジュリアンがヴィヴィを振り返り、そう促してくる。
「はい」
ヴィヴィはエッジケースを外してリンクに降りると、日本代表ジャージを羽織ったまま、直前のウォーミングアップを始める。
冒頭のアクセルの踏切。
その次のコンビネーションのアクセルの踏切。
ステップからのトリプルループの踏切。
それらを確認しながら身体を温め、気持ちも整えていく。
時間になりコーチの待つリンクサイドへと戻ると、ジャージをクリスに預け、鼻を噛む。
ミネラルウォーターを口に含み、緊張のために乾き始めた口内を潤すと、う~んと上に伸びをした。
「ヴィヴィ、SMILE」
ジュリアンのいつもの言葉を胸に刻み、
「ヴィヴィ、僕の可愛い妹、行っておいで……」
クリスの可愛らしい応援に強張りそうになる頬を緩め、
「うんっ!」
ヴィヴィは大きくそう返事をした。
「いってきま~すっ!」
そう元気に言って、べちっとフェンスの上を両手で叩いたヴィヴィは、二人に背を向ける。
ここからは、本当に一人で戦わなければいけない。
たくさん支え、励ましてくれた周りの皆はリンクにはいない。
それは凄く心細いけれど、自分は皆の想いを預かってここに立つのだから、やっぱり心細くなんてない。
「Next skater、Welcome ―― Victoria Shinomiya、From JAPAN」
場内のアナウンスに、割れんばかりの拍手と歓声が上がる。
広大なアリーナに轟くようなそのあまりの大きさに、ヴィヴィは少し驚いた。
視線を上げて周りを見回すと、日本の国旗と、英国の国旗が一緒に掲げられ、振られている。
(あ、そうだった……、ここ、ヴィヴィの第二の故郷だった……)
やはり少しテンパっていたのか、そんな事実も忘れていたヴィヴィは、心の底からにっこりと微笑んだ。
「ヴィヴィちゃ~んっ ガンバ~っ!!」
「You’re a real icy queen(君こそ本当の氷の女王だっ)!!」
日英両国の言葉で掛けられる声援に、両手を挙げて見せたヴィヴィは、ふうと深く息を吐き出すと、ピンク色の衣装の中から、ネックレスを取り出す。