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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第78章
金色の馬蹄型の、自分の幸運のお守り。
それをぎゅっと掌の中に握りこむと、また衣装の中に戻す。
(お兄ちゃん、間に合ってても間に合ってなくても、ヴィヴィの今シーズン最後のFP、観ててね――)
時間を掛けてリンク中央へと着くと、ヴィヴィは優雅に両手を上げる。
指先まで神経を張り巡らせたその洗練された動きに、場内からほうと溜め息が零れたのを、ヴィヴィも気付いていた。
(ヴィヴィを見て、笑顔になって貰える、そんな誰からも愛されるオーロラ姫を、今から全身全霊で滑る――)
ヴィヴィはぐっと瞼を瞑り、そう自分に言い聞かす。
少し傾けた右頬に、真っ直ぐ伸ばした指先を絡めた両手を添える。
優雅なハープの音色と共に、ゆっくりと右頬を沈めたヴィヴィは、夢見るような瞳でジャッジを見つめると、うっとりと心の底から微笑んだ。
深夜24時前。
ヴィヴィはホテルのカーペット敷きの廊下を、ぱたぱた足音を立てて駆けていた。
19時から始まった女子FPは21時半に終了し、それから表彰式、FPのスモールメダルセレモニー、ISU公式記者会見、日英のメディアへの対応を終えた頃にはもう23時前になっていた。
速攻ホテルに戻り、衣装を洗濯し、スケート靴を磨き、わしゃわしゃシャワーを浴びたヴィヴィは、部屋を飛び出した。
(ふぇええ……もう、24時前~。まだみんな、いるかなぁ……?)
エレベーターの中で足踏みし、その最上階に到着すると箱から飛び降りた。
お行儀が悪いが長い廊下をダッシュすると、その先に目的のリストランテを発見する。
ドアマンが恭しく扉を開けてくれ、中に入ったヴィヴィは、サービスマンを前にし言葉に詰まる。
「あ……、えっと……」
(誰の名前で、予約してるんだっけ?)
ここまで来てわたわたするヴィヴィを、その背後から呼んだ人物がいた。
「お、ヴィヴィ、やっと来たな?」
懐かしい声にぱっと振り返ると、そこにいたのは父方の従兄・ヒューだった。
「ヒュー! 病院、大丈夫だったの?」
10歳超年上のヒューは、ロンドン市内の病院に勤める外科医。
多忙な彼がまさか観戦に来れるとは思っていなかったヴィヴィは、驚いた表情で従兄に飛びつく。