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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第78章
「私さっき、FPのスモールメダル授与式に行ってたんだよ? すっごい人だかりだったから、あんまり見えなかったけど」
父方の従姉のメグの言葉に、ヴィヴィは驚く。
「え~っ!? 気づかなかった」
「我らがヴィヴィが、いっぱしのアスリートみたいに受け答えしてるのが、可笑しくて!」
そう言って爆笑したメグに、ヴィヴィは胡乱な瞳を向ける。
「………………」
「あっ! 金メダル見せてよっ もう、クリスに見せて貰ったから、同じものだけど」
母方の従姉のサリーのその言葉に、ヴィヴィはさらに据わった瞳を向ける。
「………………」
「あはは、冗談よ! 本当におめでとう、ヴィヴィ」
寄ってたかってからかわれたヴィヴィは、笑いながらお礼を言う。
「ヴィヴィ、ドーピングのドローイング(くじ引き)、引き当てなかったんだ……?」
いつの間にか傍にいたクリスにそう聞かれ、ヴィヴィは心底ほっとした表情で頷く。
「うん、良かった~。引いてたら、たぶんここにくるの、日付変わってたよ~」
ヴィヴィは何故かいつもかなりの高確率で、ドーピング検査を受けているのだ。
「ヴィヴィ、何か食べれば……?」
「う~ん、そうだねぇ……。もう夜中だし試合前におにぎり食べたから、そんなにお腹空いてないんだけど」
クリスにメニューを渡されながらも、ヴィヴィはきょろきょろと辺りを見回す。
広いパーティールームの隅、自分と年代の近い従兄弟達と飲んでいる匠海を見つけ、ヴィヴィはそちらを小さく指さし「ちょっと、行ってくる」とクリスに断る。
「ん。じゃあ、軽い食事、選んで注文しておく……」
そう答えてくれたクリスに「ありがとう」と礼を言って頬にちゅっとキスしたヴィヴィは、匠海のところへと近づいて行った。
こちらに背を向けていた匠海の黒のジャケットの背中を、ヴィヴィは指先でつんと突く。
ぱっと振り返った匠海は、頭一つ分小さいヴィヴィを見下ろし、ふっと微笑んだ。
「ヴィヴィ……。久しぶり」
落ち着いた声音でそう挨拶してくる匠海の、その彫りの深い顔の中の瞳が、とても優しく細められたのを目にし、ヴィヴィの胸がきゅうと疼いた。