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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第78章
クリスに抱かれたまま逡巡したヴィヴィは、ぽつりと呟いた。
「……駄、目……?」
妹のその言葉に、今度はクリスの体がびくりと震えた。
「行くよ」でもなければ「お兄ちゃんと約束してる」でもない。
ヴィヴィのその返事に、クリスはしばらく微動にしなかったが、やがてゆっくりと抱擁を解いた。
「駄目、じゃない……」
そう耳元で囁いたクリスは、ヴィヴィの華奢な両肩に手を添えた。
暗闇に慣れた瞳でゆっくりと顔を上げ、クリスを見上げる。
真っ直ぐヴィヴィを見下ろしてきたクリスは、ヴィヴィの想像通りの返事を返してきた。
「『受け入れる』って、そう言ったのは、僕だ……」
その灰色の瞳が小さく揺れている事に気付いているのに、ヴィヴィは小さく微笑んだ。
「……ありがとう……」
そう礼を言ったヴィヴィは、クリスの片頬に手を添えると背伸びをし、その反対の頬に唇を寄せる。
「おやすみなさい、クリス……」
「おやすみ、ヴィヴィ……」
静かに就寝の挨拶を交わした双子は、そこで別れた。
ヴィヴィは廊下を進み、到着したエレベーターに乗り込む。
ボタンを押したのは、もう既にメールで知らされていた、匠海の部屋のある階数。
エレベーターの箱に凭れ掛かったヴィヴィは、小さく息を吐いた。
(だから、言ったのに……)
そう胸の中で呟いたヴィヴィは、ぐっと瞼を閉じる。
クリスに「行くの?」と問われた時、咄嗟に脳裏によぎったのは、あの日のクリスの言葉。
『僕は、どんなヴィヴィも受け入れる……、愛しているよ……』
「………………っ」
(だから言ったのに……、
「ヴィヴィなんか、ぐちゃぐちゃにして、切り捨ててよっ!!」って)
ゆっくりと薄く瞼を開いたヴィヴィは、その長い睫毛の隙間から、エレベーター内に敷かれた精巧な絨毯の柄を睨み付ける。
(分かったでしょう、クリス。
ヴィヴィに、優しい顔なんか見せちゃ、駄目だって――)
ポーンと軽い音がし、到着したエレベーターの扉が開く。
ヴィヴィは凭れていた壁から背を離すと、すたすたと廊下を突き進む。
(そして、クリス……。貴方は今日、
ヴィヴィがお兄ちゃんのことろに行くのを見逃した……)