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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第78章
どくどくどくどく鳴り続ける心臓に、ヴィヴィは内心舌打ちする。
(五月蠅い。
心臓、五月蠅い)
「彼女さんって、ヴィヴィより大人?
ヴィヴィより可愛い? っていうか美人?
ヴィヴィより全然スタイルいい?」
そうとつとつと疑問を口にしながら、ぷちぷちとシフォンブラウスのボタンを外していくヴィヴィの両手を、匠海が掴んで止める。
「ヴィクトリア?」
そう呼ばれて見上げた匠海は、何故かとても驚いた表情をしていた。
「ヴィヴィより、気持ちいい――?」
そう確認するヴィヴィ大きな瞳は真っ直ぐと匠海へと向けられているのに、その小さな顔には表情というものがない。
「じゃあ、ヴィヴィ気を付けるね。キスマークとか、つけない様に」
ヴィヴィは掴まれた両手はそのままに、背伸びをして兄の唇に自分の薄いそれを押し付けた。
チュッと吸い付いて、小さな舌で兄の唇を辿り始めた時、匠海はヴィヴィから唇を離した。
「……ヴィクトリア。彼女なんて、いないけど?」
匠海のその声は、ヴィヴィには聞こえなかった。
ただただ五月蠅かったのだ、心臓の音が。
まるで耳の中に心臓があるかのように、どくどくと五月蠅くて敵わない。
ヴィヴィは一瞬顔を顰めると、また背伸びをして匠海に口付けようとし――止められた。
「おい、聞いてるのか? 彼女いないぞ、俺」
妹の目の前で大きな声でそう言った匠海の言葉は、やっとヴィヴィの鼓膜を揺らした。
(……彼女……いないぞ……?)
「……え……?」
そうぽつりと呟いたヴィヴィに、匠海はその顔を両手で包み、覗き込んでくる。
「何を勘違いしたか知らないけれど、俺、付き合っている女なんか、いないからな?」
「……そう、なの……?」
ヴィヴィがまだ信じられないという表情で、匠海を見上げる。
「ああ。っていうか勉強と仕事の両立で、こんなに寝る暇もないくらい忙しいのに。今の状態でどうすれば彼女が作れるか、逆に教えて欲しいくらいだっ」
愚痴っぽくそう呟いた匠海は、ヴィヴィの目の前ではぁと息を吐いた。
「……そんなの……、教えて、あげない……」
拗ねた声でそう呟くヴィヴィに、匠海が苦笑する。
「うん。俺にはヴィクトリアがいるから、な?」
「うん……」