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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第15章
「あ、見てみてクリス。『オペラ三大悪女はこいつら!』だって」
ヴィヴィがノートパソコンの画面をクリスに向ける。
「いちばん悪い女 → トゥーランドット。つぎに悪い女 → サロメ。三番目に悪い女 → カルメン かあ……」
クリスが画面を覗き込んで読み上げる。
「トゥーランドットってトリノで荒河静香選手が滑ったよね。カルメンは『ハバネラ』とか『闘牛士の歌』がいろんなスケーターに滑られてるし」
「ヴィヴィちゃんはカルメン滑らないの?」
三田ディレクターの言葉に、ヴィヴィはう~んと唸る。
「曲は好きなんだけど、カルメンは『男を手玉に取る大人の女性』だから、まだ十五歳で演じる自信……ないなあ」
(もうちょっと出てるとこ出てないと……こんな子供っぽい体じゃ、男の人誘惑できないでしょ――)
ヴィヴィは心の中でクスンと泣き真似をする。
「サロメは……?」
クリスの疑問にヴィヴィは首を傾げる。
「確かサロメって、十五歳くらいの設定だったと思うけれど……」
「えっ! そうなの?」
驚いた声を上げたヴィヴィに、三田が不思議そうにカメラを向ける。
「あ、サロメって知ってます?」
「残念ながら、知らない」と三田ディレクター。
「えっと簡単に説明すると、サロメというユダヤの王女が預言者に一目ぼれしたんだけど、預言者が相手にしてくれないから義理の父の前でダンスを踊って、その見返りとして預言者の首を要求するっていう、おどろおどろしい話です」
「それは血生臭い話だね」
ヴィヴィの端的な説明に三田が苦笑する。
「そうなんです。だからサロメが十五歳って聞いて驚いちゃった……もっと大人の女性なんだと思ってた」
「フィギュアではよく使われる題材なの?」
三田ディレクターはそれほどフィギュアに詳しくないらしい。
スポーツ全般を扱っているそうなので、しようがないのだろう。
「ミシェロ・クワンが世界選手権で滑ったのはとても有名ですね……それ以外はあまり聞かないかな?」
ヴィヴィがそう言ってクリスを見ると、クリスは頷く。
「確か……その時のミシェロ・クワンも十五歳だったよ……」
「………………」
(へえ…………)