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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第15章
ヴィヴィは急にソファーから席を立つと、ライブラリーの壁の棚へと歩いていく。
オペラのDVDが置かれている中に、ヴィヴィの探していたサロメがあった。
「クリス、これ見ていい?」
ヴィヴィがソファーに座るクリスを振り返ってDVDを掲げてみせると、兄が近づいて来て妹の手の中からDVDを受け取りプレイヤーにセットしてくれた。
礼を言ってソファーに戻ると、リモコンでスタートする。
オスカー・ワイルドにより手がけられた戯曲をドイツ語に翻訳したものをリヒャルト・シュトラウスが用いているので、オペラはドイツ語だった。
ヴィヴィは片言なら喋れるがさすがに全ては聞き取れず、英語の字幕を目で追う。
時は西暦三十年頃、舞台はエルサレムのヘロデ王の宮殿。
サロメは王妃ヘロディアスの娘で、ユダヤ王ヘロデは義父にあたる。
このヘロデ王は、サロメの実の父でもある兄を殺し、ヘロディアスを自らの妻としていた。
宴の席でヘロデ王に好色の目つきで見つめられていたサロメは、満月に照らされたテラスに逃れる。
『ああ、私はあんな席にいるのは厭だ。いるのは厭だ。
何でお父様はあのぶるぶる震えている瞼の奥のもぐら鼠の目のような目で、いつもいつも私の顔ばかり見ておいでなさるのだろう。
お母様の亭主の王様が、私をあんな風に見てお出でなさるというのは変ではないか。
月を見ているのは好い心持だ。
月は銀の花のようだ。冷たくて清い。
そう、処女の美しさのようだ。いつまでも純潔でいた処女のようだわ』
すると地下から不気味な声が聞こえてくる。
ヘロデ王によって隠し井戸に幽閉されていた、預言者ヨハナーンの声だった。
この声に興味を持ったサロメは、若い衛兵隊長ナラボートに隠し井戸の蓋を開けるよう命じる。
王から禁じられているにもかかわらず、ナラボートはサロメの妖艶な美しさに心を奪われ、ヨハナーンを外に出してしまう。
『その唇なのだよ、私が欲しくてたまらないのは、ヨハナーン。
お前の唇は象牙の塔に施した緋色の縞。
象牙の刃を入れた石榴の実。
ツロの庭に咲く薔薇より赤い石榴の花もお前の唇ほど赤くはない。
私はお前の唇に接吻せねばならぬ、ヨハナーン。
私は接吻せずにはおけぬ』