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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第79章            

「ああ。俺の躰に触れる時にちょっと震えてるとことか、縋り付いてくる時に、俺の肌に指の腹が食い込んでたりすると、気持ちいいんだなって分かって」

「………………え?」

 何だか自分が兄の手を好きな理由とはかけ離れたその返答に、ヴィヴィは反応に困る。

 そんなヴィヴィの細い手をひょいと握った匠海は、それを自分の口元に持って行き、ちゅっとキスを落とす。

「ああ、後、必死にシーツを握り締めてる手が、最高にやらしくていい」

 その信じられない返事に、ヴィヴィは目を見開いた。

「―――っ お兄ちゃんはえっちな事しか考えてないのっ!?」

「お前に関しては、100%そうかもな」

 目の前でそうしれっと返され、ヴィヴィは絶句した。

(ひゃっ 100%……っ!? お、お兄ちゃん……、やっぱりヴィヴィのこと、えっちの相手としか見てないんだっ)

「も、もうっ 知らないっ」 

 ヴィヴィは泣きそうな声でそう喚くと、ぷいと匠海とは違う方向へ顔を逸らした。

(だって……、だってもっとあるじゃないっ? 滑ってる時とかバレエ踊ってる時の手だったり、それこそピアノ弾いてる時の手だったりとかさぁっ!?)

「ヴィクトリア?」

 静かになってしまったヴィヴィを、匠海が面白そうに呼んでくる。

「………………」

 静かなバスルームに、ちゃぷんという小さな水音だけが響く。

「お~い、ヴィクトリアさん?」

 そう言ってヴィヴィの肩をさらに抱き寄せてきた匠海に、ヴィヴィは唇を尖らせたまま言い募る。

「……口、きかないんだもんっ」

(さすがのヴィヴィ様も、怒っておりますっ!!)

 そう心の中で付け加えたのに、

「きいてるじゃないか」

 匠海のその返事に、ヴィヴィはぶち切れた。

「……――っ!? もう、ヴィヴィあがるっ!」

 ざばっと大きな水音を立てて白い浴槽から出ようとしたヴィヴィの腰が、匠海に掴まれた。

「駄目」

「え?」

「駄目だよ、ヴィクトリア」

 その声が先ほどまでのふざけたものではなく真剣な声音で、ヴィヴィは咄嗟に匠海を振り返った。

「俺はまだ、会えてなかった2ヶ月分、埋めれてない」

 自分を真っ直ぐ見上げてそう告白する匠海の瞳には、寂しそうな色が浮かんでいた。

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