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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章
きっとヴィヴィの幼い外見と言動からそう判断したのだろう、ズエワコーチの手厳しいその評価に、ヴィヴィはず~んと凹んでしまった。
(ううう……っ やっぱり色気が無いからなのか? そうなのかっ!?)
「ふふ。今は早くても、たぶん2年後位には“さま”になるんじゃないかしら? ぜひその際は、私にも振付師としてのチャンスを欲しいものだわね?」
そう言ってヴィヴィに色っぽくウィンクして寄越したズエワコーチに、ヴィヴィは背筋を伸ばし、
「あっ はいっ こちらこそ、振り付けしたいと思って貰える様なスケーターに、なれるよう頑張ります!」
と恐縮しまくった。
「あら、今でもとっても振付したいのよ、貴方達のこと。でも、絶対にジャンナが手放さないわよ~」
ズエワコーチの言う「ジャンナ」とは、ジャンナ・モロゾワ――双子の振付師だ。
互いにロシア人同士だから気兼ねないのだろう、そう言って茶目っ気たっぷりに丸い肩を上げてみせるズエワコーチに、ヴィヴィは笑った。
その後、今から取材があると言うカナダのアイス・ダンスペアの3名に別れを告げ、双子は食後のお茶を飲んでいた。
「お腹一杯になったら、眠くなっちゃった。ふわわ……」
小さくあくびをしながらコーヒーを飲むヴィヴィに、クリスがそのカップと自分のカップの柄を片手で持ち、もう片方の手でヴィヴィの手首を掴んで立ち上がらせた。
「え……? どうしたの、クリス……?」
「向こう、ソファーあったから……」
そうよく分からない返事を寄越したクリスに手を引かれ、ヴィヴィは人気の少ない関係者用の小さなロビーに連れて行かれた。
窓際の4人掛けのソファーに座るように促したクリスに、ヴィヴィは大人しく腰掛けて自分のカップを受け取る。
「ふふ……。窓から入ってくる日光がぽかぽかして、よけい眠くなっちゃう……」
そう呟いたヴィヴィの膝に、クリスがごろんと金色の頭を乗せてきた。
「僕も、眠い……」
早々に瞼を閉じたクリスに、ヴィヴィは苦笑してその髪を撫でた。
自分と同じく、少し細めで直毛の、暗めの金髪。
それを指で梳きながら、ヴィヴィはぽそりと零す。
「ねえ……。クリスはどうして、そんなに優しくなれるの……?」
(ヴィヴィ、昨日、あんなに酷い事したのに……)