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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章            

 昨夜、匠海の部屋に行こうとするヴィヴィに「行くの?」と確認してきたクリスに対し、自分は「駄目?」と逆に尋ねた。

 クリスが喜んで「行っておいで」なんて、絶対に言う筈がないのに――そう分かっていて、自分は尋ねたのだ。

 クリスがヴィヴィと匠海を応援したい筈がない。

 何故なら、クリスは自分とも匠海とも血を分けた、大切な兄弟なのだから。

「……お兄ちゃん、だから、僕は……」

 瞼を瞑ったまま、ぼそりと呟いたクリス。

「……それだけ、で……?」

 ヴィヴィは分かったような分からないような複雑な心境で、そう聞き返す。

「……う、ん……」

 小さくそう頷いたクリスから、やがてすうすうと微かな寝息が聞こえてくる。

 ヴィヴィは近くのテーブルにコーヒーカップを置くと、自分もソファーの背凭れに背中を預け、瞼を閉じた。

( “お兄ちゃん” って……、兄妹って、そういうもの、なんだったけ……)

 そう頭の隅で考えている内に、ヴィヴィもうとうとしていたらしい。

「あ~! やっと見つけたっ」

 その大声でぱちと瞼を開けたヴィヴィの目の前、牧野マネージャーが仁王立ちしていた。

「こら! 12:30からファイナルのリハって言っただろう!?」

 牧野の血相を変えたその叫びに、ヴィヴィは驚いて自分のスウォッチで時間を確認し、目を剥いた。

「えっ 今何時……っ ひええっ クリス、起きてぇっ!!」

 クリスの肩を掴んで揺さぶったヴィヴィに、双子の兄は呑気に答える。

「……う、ん……おはよ……」

「おはよ、じゃない! とにかく急いでスケート靴履いてっ」

 牧野のその言葉に双子は慌てて、それぞれのロッカーへと駆けて行ったのだった。








 何とかエキシビのリハを終えたヴィヴィは、スポンサーのスタイリストにメイクとセットをして貰った。

 自分でするより、プロにして貰ってばっちり決まったメイクに、ヴィヴィは浮き足立っていた。

 女子更衣室で衣装に着替えている最中も、ヴィヴィは「うふふ」と一人、思い出し笑いをする。




「綺麗な髪だな」

 今朝、髪をドライヤーで乾かしてくれた匠海は、ブラシで長い金髪を整えながら、そう褒めてくれた。

「あ、ありがとうっ」

 ヴィヴィは鏡の中に映る匠海に視線を送り、そう素直にお礼を言う。

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