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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章
「今日で『アリス』も見納めか」
「あ、そだね……」
匠海の指摘にヴィヴィも頷く。
ヴィヴィの今シーズンの最終戦はこの世界選手権で、もうアイスショーに出演もしないので、確かに今日が『不思議の国のアリス』の滑り納めとなる。
「よっし! めちゃくちゃアリスになりきって、サラ達見返してやる!」
そう意気込んで胸の前でファイティングポーズを取ったヴィヴィに、鏡の中の匠海が不思議そうに見返してくる。
「サラ達を? なんで?」
「『お子ちゃま』の国のアリス って言われたのっ!」
昨晩の事を思い出し、可愛らしく頬を膨らませたヴィヴィに、匠海が白い歯を見せて笑った。
「はは。うまいこと言うな」
「全然うまくな~いっ」
そうムキなって言い返すヴィヴィの背後から、匠海がふわりと抱きしめてきた。
自分の小さな肩に両腕を回して、鏡越しに覗き込んでくる匠海の悪戯っぽい表情に、ヴィヴィの胸がどくりと跳ねた。
「そうだよな。俺と二人っきりの時のヴィクトリアは、全然『お子ちゃま』なんかじゃないし」
「……――っ」
昨夜と今朝の自分の乱れ具合を思い出し、ヴィヴィの頬がさっと朱に染まる。
その頬に後ろから頬ずりした匠海は、その耳元で熱い吐息と共に囁いた。
「エロくて厭らしいヴィクトリアを知っているのは、俺だけだ」
鏡の中の匠海の瞳が妖しく煌めいて見えて、ヴィヴィはふるりと微かに躰を震わせた。
「……うん……、お兄ちゃん、だけ……」
恥ずかしそうに匠海の両腕に手を添え振り返ると、兄はヴィヴィの唇を啄んだ。
「ほら、乾いたよ」
妹に巻きつけていた両腕を解いてそう言った匠海に、ヴィヴィは自分の髪を手で触り嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう! うふふ。サラサラだ」
そしてそのサラサラの髪をスタイリストにも褒められたヴィヴィは、そこに黒いカチューシャを乗せて、満面の笑みで鏡を見つめた。
「きゃ~~っ!!」
細い悲鳴と共に、真っ赤になった顔を両手で覆うヴィヴィを、女子更衣室にいた皆が振り向く。
「な、何事……?」
「春、だねえ……」
「木の芽時、だからねえ……」