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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第15章
『ああ……とうとうお前の口に接吻したわ、ヨハナーンや。
お前の口に接吻したわ。
お前の唇は苦い味がするのね。
あれは血の味なの。
いや。ことによったら恋の味かも知れぬ。
恋は苦いものというから。
そんな事はどうでも好い。
ヨハナーンや。私はお前の口に接吻したよ。
お前の口に接吻しましたよ』
その有様を見ていたヘロデ王は兵士達にサロメを殺すように命じ、そこで幕が下りる。
気が付くと一時間半程のオペラは終わっていた。
「………………」
ヴィヴィはサロメのストーリーは知っていたが、オペラを見るのは初めてだった。
さらにその主人公であるサロメが十五歳の少女ということに衝撃を受ける。
まるで玩具を欲するるように、無邪気に愛した男の首を強請る少女――。
自分の欲しいものの為なら嫌いな義父の前で裸同然の格好で舞を舞う、そのひたむきさと狡猾さ。
『ああ、なぜお前は私の顔を見なかったのだ。
少しでも見てさえくれたなら、私を愛してくれたろうに――』
戯曲の一説が蘇る。
その途端、何故かヴィヴィの背筋がぶるりと大きく震えた。
「やる……私、これ、絶対、やる――」
そう思い詰めた様にぶつぶつと呟くヴィヴィを、クリスと三田は圧倒されたように黙って見守っていた。