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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第16章                 


「ヴィヴィ、なんか疲れてない?」

 目の前でイタリアの男子シングルのスケーターがFSを滑っている最中、隣に座った宮平 知子(さとこ)選手が少し心配そうにヴィヴィの顔を覗き込む。

 ヴィヴィは自分よりも十センチ低い宮平を情けない顔で見返して、苦笑した。

「あ、ばれちゃいました?」

「そりゃあ、なんかそこはかとない疲労感が滲み出てるし……」

 ヴィヴィの体の周りを両手で象(かたど)るように宮平が辿る。

「え~ホントですか! いけないけない。単なる筋肉痛なだけなんです」

「筋肉痛?」

 いつも体を酷使しているヴィヴィが筋肉痛になる意味が分からないのか、宮平が可愛く首を傾げる。

「えへへ。いつもは使わない筋肉を使ってるみたいで」

 ヴィヴィはそう言いながら、自分の薄い体を指し示す。

 肋骨と肋骨の間のここが痛くて、腸骨の奥の筋肉が痛いと事細かく説明すると、周りにいた日本選手たちがそれを聞きとめて笑い出す。

「いったいどんなトレーニングしてるの、ヴィヴィ」

「クリスも同じところ痛いの?」

 イタリアのスケーターが滑り終わったのでそれに拍手を送りながら、皆が双子に聞いてくる。

「新しくダンスのレッスンを増やしたんだ~、でもクリスは違うダンスを習ってるから、多分違うとこ痛いんじゃない?」

 ヴィヴィの後ろに座っていたクリスにヴィヴィが話を振ると、兄がぼそりと呟く。

「僕は、腓(ひ)骨の間の筋肉が痛い……」

 肩を落としてそう言うクリスに隣に座っていたマーヴィン・藤堂選手がその肩に腕を回す。

「どこだよ、腓骨って!」

「っていうか、なんでお前らそんなに骨の名前知ってるの?」

 わいわいと騒いでいると、アナウンスが羽生(はぶ)選手の名前を呼ぶ。

「おっと、我らがリーダーのおでましだぜ!!」

 日本チームの皆が一斉に持っていた日の丸や応援グッズを手にして立ち上がり、日本チームのリーダーに声援を送る。






 四月に入り、双子は国別対抗戦に初出場をしていた。

 二〇一四年のソチオリンピックより公式種目とされた団体戦は日本は金メダルを取れなかったが、異常な盛り上がりを見せて大成功に終わっていた。よって来年にオリンピックを控えている今年の国別団体戦は、オリンピック模擬戦とも言われていた。

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