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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章            

 ヴィヴィはエキシビで、『不思議の国のアリス』に出てくる、懐中時計を持った白ウサギの縫いぐるみを小道具として使った後、子供の観客に毎回プレゼントしていたのだ。

「ごめん~っ 人が多すぎて、ジムがどこにいるか分からなかったの」

「ぶ~~っ 僕、欲しかったの。ヴィヴィが一緒に踊ったウサギさん」

 頬を膨らませてそう言い募るジムに、ヴィヴィの顔がメロメロに蕩ける。

「ジムっ 可愛いっ!! ……そんなジムに、プレゼント……、はい!」

 ヴィヴィは自分のキャスター付きのバックをがさごそと漁ると、その中から白ウサギの縫いぐるみを出した。

「あれ? どうしたの、それ?」

 傍で面白がって成り行きを見守っていたサラが、不思議そうに尋ねてくる。

「ん~。いつも何かあったとき用のために、2個持ち歩いてるんだ。はい、ジムにあげる」

 そう言ってジムに縫いぐるみをプレゼントすると、一気にその可愛い顔が綻んだ。

「わあっ ありがとう、ヴィヴィ!」

「ヴィヴィと一緒には踊ってないけど、一緒に日本から旅してきた子だから、可愛がってね?」

 またしゃがんでジムの頭を撫でなですると、「うんっ!」と素直な返事が返ってきた。

 ヴィヴィはふらふらと立ち上がると、近くにいた母ジュリアンに叫ぶ。

「マムっ! ヴィヴィも『弟』欲しいっ」

「はあ……? あんただけでも相当手を煩わされてるのに、その下に『弟』なんて産めるかっ!」

 そうぴしゃりと返され、ヴィヴィも対抗する。

「ヴィヴィ、そこまでマムを煩わせてる!?」

「……自覚が無いのが、一番手に負えない……」

 両手を上にあげて首を振って見せるジュリアンに、親族達が笑い転げる。

「まあ、ヴィヴィだから、なあ?」

「自覚はないだろう。でもあの子がいると、笑いが絶えない」

「ほんとにねえ。小さな頃から騒がしいけれど、面白い子だわ」

 叔父叔母にそう酷評されたヴィヴィは、唯一の心のオアシスを振り返ったが、

「ヴィヴィの負け、だね?」

 ジムにまでそう茶化され、ヴィヴィは「とほほ……」と情けなく呟いた。

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