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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章            

 エレベーターを降りて、部屋の前まで送ってくれたクリスを、ヴィヴィは誘う。

「お茶でもしてく?」

 日本からハーブティーの茶葉を持参したヴィヴィは、クリスが安眠できればと思ってそう誘ったが、双子の兄は首を振った。

「ううん。もう、寝る……。おやすみ、ヴィヴィ……」

 そう就寝の挨拶をして妹の手から自分の手を解いたクリスは、その肩を抱き寄せておでこに軽くおやすみのキスを落とした。

「ん。おやすみなさい、クリス」

 ヴィヴィも軽くハグとキスをすると、部屋に入った。

 暗い室内にカードキーを指すと、ほわんと明るい光が灯る。

 壁に据え付けられたデスクに荷物を置き、腕時計で時間を確認したヴィヴィは、ふっと息を吐いた。

 22:30迄の予定だったクロージングバンケットは、少し時間が押して23:00を回っていた。

「……行か、なきゃ……」

 そうぼそりと呟いたヴィヴィは、肩に巻いていたストールを取り、ワインレッドのワンピースを脱ぐと、クローゼットへと直す。

 軽くシャワーを浴びたヴィヴィは、白いバスタオルを躰に巻きつけて部屋へと戻る。

 そしてクローゼットを開き、小さな花柄の布袋を手に取った。

 それをじっと見つめる瞳は、何故かとても昏い。

(何が、「お茶でもしてく?」よ……。

 ただ、現実から少しでも目を逸らしたかった。

 その為だけに、またクリスに甘えようとした……)
 
 ヴィヴィは袋を握りしめると、ぐっと瞼を閉じた。
 
 バンケットが終わるまでは、この後匠海に会えるのを心待ちにしている自分がいた。

 けれど、今まさに兄の部屋に行こうとしている自分は、違う。




    (もう、『鞭』でも何でも、

     お兄ちゃんに与えられるものだったら、ヴィヴィ、それでいい……)




 今朝、兄に甘く激しく求められた後、そう思ったのは嘘ではない。

 ただ問題はそんなに単純ではないのだ。

 なにせ、兄は自分を抱くことに飽きてきているのだから――。

 ヴィヴィはシルバーのクラッチバックに視線を移し、その中から匠海から預かったカードキーを摘み上げる。

 それと一緒に、今日沢山渡された名刺がデスクの上に零れ落ちた。

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